現場一筋「俺はごまかせない」 日揮鍛える出戻り社長
日揮の石塚忠社長(上)
――リスク管理の徹底で、18年3月期は165億円の最終黒字に転換しました。実際のプロジェクトでは何かやり方を変えましたか。
「最近、カナダの液化天然ガス(LNG)プラントで受注額6000億円の大きな案件を受注したのですが、まさにリスクです。日曜日に3回、朝から晩まで、会長から法務・財務の社員も含めて20人ぐらいでプロジェクトを最初から全部ひもとき、どういうリスクがあるのかを話し合いました。大型案件では経営陣やOBまで含めて何度も分析を行うようにしました」
社内の意識改革から 形骸化した会議や文書はやめる

形骸化した会議や文書はやめさせた
「リスク分析は技術的な問題に目が行きがちですが、本当のリスクは外からやってきます。カナダの案件では中国などでプラントの一部の装置を作るのですが、中国って何が起こるかわからない。暴動でも起きたらどうするのかと想定し、不可抗力条項を契約に入れてもらうことにしました。財務メンバーには、JV(企業共同体)のパートナー企業の財務状況を徹底的に調べてもらいました」
――リスクの洗い出しは今までもやっていたのではないですか。
「毎回やっていたと思いますが形骸化していた。シミュレーションソフトを使ったり、リスク管理会議というような名前で2時間ぐらいやったり。そんなのやめろ、と言いました。もっと自分たちの目でしっかりと時間をかけて分析するようにと」
「形骸化でいうと、毎年、社長が今年の運営方針を作ってきたのですが、たいてい美辞麗句を並べ、どこかのビジネススクールから出てきたようなカタカナ言葉を使って、10ページぐらいの文書になります。でも、それを会議で説明した1週間後にはみな内容を忘れている。ある会議で役員に『去年の会社の運営方針は何だったっけ』と順番に聞いていくと、誰一人答えられませんでした。大事なのは有言実行でやる項目を簡潔に書くことです」
「私も就任後に社長の運営方針を作ってほしいと頼まれましたが、嫌だと言いました。そういう形骸化したものが一番嫌いだから。でもやっぱりそれでは運営上まずいということで、作ることにしたけれども、紙は1枚。そして言ったことは必ずやるし、やらせる。各事業本部もたくさん書いていたけど1枚にさせました」
「企業理念や中期経営計画も大事ですが、それだけで会社は食っていけません。市場環境が変わると、5年で立てた計画は必ずずれていきます。良くないのは、その計画を不要だと思っていても書いてあるからやるという人が必ずいることです。だから中計も1年ごとに見直すようにしています」
1972年宮城工業高等専門学校(現仙台高専)卒、日揮入社。東南アジアのプラント工事などで頭角を現す。2008年常務取締役、11年取締役副社長。15年に退社したが、17年2月に復帰し、上席副社長執行役員。同年6月から現職。趣味は家庭菜園。
(安田亜紀代)