ママは量より質のプロ仕事 保育付きオフィスで柔軟に
オクシイの高田麻衣子社長
自身も会社員時代に一時はベビーシッターを週2回利用しながら夕方の会議に出席し、会社の働き方に極力合わせてきた。だがベビーシッターが怒らない人だと思ったら子供の行儀も悪くなりやすい。東日本大震災をきっかけに子供と離れた場所で働くことの不安も感じていた。通勤時間の短縮などの目的で在宅やサテライトオフィスなども出始めていたが、さらに保育施設の機能が付いていたら、子供に寄り添いながら安心して働けるのではないか。マフィスのコンセプトは自然と決まった。「子供の近くで、わたしの時間」だ。
仕事のボリュームは6割でも質は維持する働き方
14年にオクシイを設立。当初は子供を預けてできるだけ長く働く利用者が多いだろうと考えたが、実際は違った。例えば外資系コンサルティング会社出身の女性は週に3~4日だけマフィスで働きながら、個人でコンサルを請け負っている。「バリバリ働く企業の拘束時間には耐えられない女性が独立し、仕事量を従来の6割ぐらいにしながらも高度な業務をしているケースが増えています。仕事をしたい人がすべてフルタイムや夜まで働きたいわけではない」と高田さんは語る。前述の志賀さんも「週5日フルタイムで子供を預けたいとは思っていません。ただ柔軟な働き方に対応してくれる保育園はまだ少ないんですよね」という。

木目調の家具や緑を多く配置し、落ち着いた雰囲気のオフィス
利用するきっかけも、半分復帰しながら資格試験の勉強をしたい、長時間の通勤に悩んでいた、母乳育児を続けたいなど、ニーズや事情は様々だ。ただ、高田さんによると、比較的共通している価値観があるという。「100かゼロかではない中庸というか、プロとして仕事をする誇りがありながらも、子育てを完全に人任せにして男性並みに働くほどのバリキャリではない。子育てに対する責任感は人一倍強いんです」
こうした女性の柔軟な働き方を後押ししようと、リモートワークを推奨する企業も増えてきた。高田さんがかつて企業の人事部に営業をかけても門前払いであることが多かったが、急速に法人契約の問い合わせが増えてきたという。時代は変わりつつある。
チームを組織して業務受託の可能性も
今後の事業展開を尋ねると「優秀なママがたくさんいるので、組織化したい」という。一体どういうことか。
マフィスではコンサルタント、リサーチャー、マーケターといった多様な人材がそれぞれ単独で、従来の6割ぐらいの量の仕事をしている。もしチームで仕事をすれば、戦略コンサル企業が手掛けるような難易度の高い仕事に挑戦できるのではと考えているのだ。オクシイがコンサル業務を受託し、マフィスの会員の中から仕事内容に応じて適任者数人と業務委託契約を結び、プロジェクトチームを作るイメージだ。
「大手の戦略コンサルに頼んだら6000万円かかる案件があるとします。フリーで働く人たちはそこまでの報酬を必要としませんから1000万円で受注できるかもしれない。そうすれば自分たちの働きやすいスタイルで、十分な収入を維持できる」と高田さんは期待する。実際に、子育て中のママをターゲットにした新規事業開発や販路拡大などのテーマでコンサルしてもらえるかどうか、関心を持つ企業もあるという。
仕事を要件定義して、一人ひとりの得意分野や専門知識に応じて業務を割り振る。そして、貢献度によって分配額を決める。「ハイスペックなチームを組織できるよう、顧客企業の依頼を仲介するエージェント機能も強化したい」と夢は膨らむ。今後は、何らかの事情で業務に携われなくなるなどのリスク管理や、営業コストをどう負担するかなどの課題を検討していく。
物理的な場所や時間だけの問題ではない。ママの理想の働き方を模索し続けていくつもりだ。
(安田亜紀代)