不登校経験がバネ 保育トップが貫く子供の現場主義
グローバルグループ 中正雄一代表取締役(下)
高校に入り、親に初めて反発した。「アメフトを選んだのも、母親の設計図には絶対無いスポーツだったから」。アメフトを続けられる大学は関西にいくつもあるが、わざわざ東京の明治大学に入学した。「親元から離れたい一心だった」
ユニークな休暇制度を次々に

子供を真ん中に、大人がタッグを組む関係が理想だ
就職先は製パン・レストラン業の神戸屋をあえて選んだ。これも「親への反発」だったと認める。「母は怒りましたねえ」。米屋の跡取りがどうしてパン屋になるんだ、と強く責められたという。
母の意に背いてアメフトを始め、パン屋に就職した本当の気持ちを正直に母に話せたのは、昨年だった。実に30年以上、葛藤を抱え続けていたという。
保育ビジネスに身を転じ、現場で子供、保護者、保育士と密に交わる中で、ようやく気づいたのだという。「僕の少年時代の葛藤は、子供時代に関わる大人の影響がどれだけ大きいかを示すいい例だと思う」。それだけ保育という仕事は単なるビジネスにとどまらない、重さがある。だからこその現場主義なのだ。
この思いは、激務に反して賃金の低さが問題となっている保育士の待遇問題につながる。現代日本では子育ての大切な時期に親が孤立しがちで、地域社会もなかなか関われない。そんな中、保育所は長ければ一日の半分以上を子供が過ごす、まさに成長の場。「そんな重要な仕事である保育士の社会的地位の向上を目指さなければならない」というのが、独立以来の課題だ。
そこで、同社では保育士の待遇を改善するため、手取りベースの給与は毎年上げている。育児休業期間は法定より長い3年としているほか、子が小学校を卒業するまで時短勤務を認める。アニバーサリー休暇、いつでも休暇、孫の誕生休暇など、保育士自身が長く働き続けられるよう、ユニークな制度で支援する。
中正氏の考えを好ましく受け止めない同業者もいるという。しかし、「数のパワーをもって、異端な考え方を当たり前にしていこうじゃないか」との一念で、規模を拡大してきた。神戸屋の店舗開発で鍛えた営業の手腕を発揮し、創業から11年で、東証一部上場を果たし、運営する施設数は現在141カ所にまで急拡大させてきた。