想定外だらけの世界渡る 住友化学女性役員の交渉力
住友化学 執行役員 広岡敦子(下)

アフリカでの交渉・取引は一筋縄ではいかないという
防虫蚊帳をアフリカで現地生産することにいち早く取り組んできた住友化学。国際機関を介した特殊なビジネスモデルは数多くの「想定外」にも直面してきた。問題が発生するたびに現地へ飛んで、じかに交渉してきた広岡敦子さんに、「今だから笑って話せる」体験の数々を聞いた。(前回の記事は「蚊帳でマラリア撲滅 住友化学の女性役員、世界駆ける」)
計画通りには運ばないのがアフリカでは当たり前
日本で想像するのと、実際に足を運んだアフリカは結構異なるようだ。もちろん、場所によっては緊張を強いられることもある。日本から遠く離れた海外では、想定外のトラブルも起こる。
「グローバルファンド(世界基金)を通じて入る支援物資のオーダーは、1回に何十万から100万帳という膨大な数にのぼります。工場は納期に間に合わせるため、いつでもフル稼働できるよう準備しておかなくてはなりません。ところが、なかなかスムーズに生産に入れないことも多いんです」
防虫蚊帳の袋には、支援先の国から「国旗やロゴを入れてほしい」などデザインに関する注文が入る。「袋だけではなく、タグにも入れてほしいとか」。大抵は1回で終わらず、何度も変更の要請があり、そのたびに工場は振り回されることになる。
「生産に入る前のやりとりだけで、1、2カ月はかかってしまいます。その間、現地のスタッフはほかの仕事を受注するわけにもいかず、ただひたすら工場を空けて待つしかない。ようやくフル稼働できたかと思えば、今度は『遅い』とクレームが入る。なにごとも計画通りにはいきません」
「キャンセル」の通告でトラックが立ち往生
商品が完成しても、無事に物資が届くまで決して安心はできない。例えば、こんな出来事があった。
「いざ商品を工場のあるタンザニアから(納品先の)ルワンダへ運ぼうとしたときのことでした。思った以上に交渉や手続きに時間がかかってしまった。ようやくトラックに商品を載せて工場を出発できたと思ったら、今度はルワンダの国境付近で一方的に『納期に遅れたからキャンセルする』と通告され、トラックが立ち往生する騒ぎになりました」
商品を載せたまま、数十台のトラックを路上に停車しておくわけにもいかず、近くの倉庫を借りて駐車することに。「駐車には1日につき250ドルかかると言われてしまいまして」
慌てて現地へ飛び、関係各所と交渉したが、らちが空かず、国境を通るために必要な証明書を発行してもらうのに、結局、6カ月間もかかってしまった。「最終的に許可が下りたからよかったんですけれども、一時はどうなることかと冷や汗をかきました」