「9歳の修羅場」が鍛えた GEジャパン社長の交渉力
GEジャパンの浅井英里子社長(上)
「政策渉外は、日本でのビジネス拡大のために必要な政策関連のことは何でもやります。主力分野のエネルギーや医療機器、航空機エンジンなどは規制の多い産業です。業界団体や有識者などと協力しながら政府の関係部局に制度改革や規制緩和を働きかけるというのが第一の仕事です。産学官の共同研究や対日投資の補助金獲得のために動いたり、デジタル技術関連の新しい市場を創出するために、政策推進を働きかけたりもします」
強い信頼関係がなければ相手は動いてくれない

「信頼を積み重ねることで、物事が大きく動く瞬間がある」という
――そこで力を発揮できた要因はどこにありますか。
「一番重要なのは、コミュニケーション能力です。価値観が全く違う人たちに対しても、きちんと納得してもらえるように話ができること。さらに政策の仕事では、行政の担当者に『自分ごと』としてとらえてもらい、実際に動いてもらわなくてはなりません」
「そのためには『浅井さんがそこまで言うならやらなきゃ』と思ってもらえるだけの信頼関係を築けるかどうかが勝負です。必要があれば何度でも担当者に会いに行き、宿題をもらえば目先の仕事には関係なくても、一生懸命応える。そうやって信頼を積み重ねることで、物事が大きく動く瞬間があるのです」
「マイクロソフト時代の経験ですが、ソフトウエアのビジネスでは、製品のサポートが終了するタイミングで新しいバージョンにアップグレードしてもらうというのがセールスのチャンスです。ところが、政策活動を通じて協力関係にあったある省庁の課長さんが『今年度の予算がついていないので、新製品は買えない。だから古いのを使い続けるしかない』と嘆いていたんです」
「そこで一部サポート期間を延長してもらえないか、会社に掛け合ってみようと考えました。周囲は、『グローバルに売っている製品でそんな特別扱いができるはずがない』と冷ややかでしたが、ちょっとサポートすることで得られる会社の信用向上を考えれば、『やるしかない』と。自分は政策担当でしたが、製品開発担当者と粘り強く交渉をしました。結局、できないと言われていたサポートの延長が実現し、とても感謝されました。その後、会社の信頼度もあがりビジネスに貢献することができました」
――そういった粘り強さや交渉力はどこで身につけたのでしょう。
「原点は子どもの頃、言葉が通じない中でサバイバルした体験にあると思います。父のオーストラリア赴任で9歳の時、英語がまったく話せないのにいきなり現地校に放り込まれました。トイレに行きたいことさえ伝えられず、授業も全くわかりません。でもそこでなんとかしなくてはと幼心に考えて、毎日小さな目標を立てて、一つ一つクリアし、できたら自分を褒めることにしました。『きょうは一人でトイレに行く』とか『一言だけ自分の気持ちを伝えてみる』とか」