難題失敗は恥じゃない がんに勝ったカルビー女性役員
カルビー 執行役員 武田雅子さん(下)
病と闘いながらも、産業カウンセラーに合格
夜間、うつをまぎらわすためにネットサーフィンをすることも多かった。産業カウンセラーの養成講座があることを知ったのも、ネットを巡っていたときだった。とっさに「これはいい」と思い、約半年間、月に2回のスクーリングに通い、資格を取った。
「症状には波がありました。薬で少し落ち着いたときに、この貴重な経験をやり過ごすのはもったいないなと思ったんです。講座では傾聴を徹底的にトレーニングされましたし、人との向き合い方を教えてもらいました。修了して十数年経ちますが、いまだに当時の同級生とは仲がいいんです」
武田さんは自らの経験を生かし、働きながらがんの治療を続ける人たちを支援する社外活動にも取り組んでいる。「上下関係は全くなく、本音で話し合えるし、実力のぶつかり合いでおもしろい。時々、グループカウンセリングもしていますが、毎回、自分がエネルギーをもらっているから、忙しくても行っちゃうんです」
採用を通じて「人事」のおもしろさを知る
営業と人事をほぼ交互に担当するような形でキャリアを積んできた。だが、実は「人事の仕事が嫌いだった」という。考え方が変わったのは、採用を担当するようになってからだ。
「人事って会社にとって何の役に立つのかなあと、最初は思っていました。ですが、採用を担当するようになり、人事の仕事がおもしろく感じられるようになりました。毎年、10人ぐらいを新卒採用するとしたら、その10人で会社は変わりません。ただし、採用プロセスに100人ぐらいの社員が関与し、その人たちが全員、会社のビジョンを理解して異口同音に働くことの魅力を語ってくれるようになれば会社は変わる。そのことに気づいてから、採用という仕事を通じて、いかに会社を変革できるかに挑戦したくなったんです」

クレディセゾン時代は取り扱い説明書を模した会社案内を作るなど、新卒者獲得に知恵を絞った(中央が武田さん)
採用に関して、武田さんは様々な工夫を凝らしていた。その1つが学生のインターンシップに、ボードゲームを導入したことだ。「クレジットカードの会社ってどこでもうけているか、分かりにくいですよね。だったらゲームにしてみたらと提案し、外部の研修ベンダーさんと一緒にカード会社のビジネスモデルを理解してもらえるゲームを作り、インターンシップに導入しました」
2000年代初頭のこと、就活イベントの合同説明会に行くと、会場近くのごみ箱に会社案内が大量に捨てられていた。「各社、力を入れて作っているのにもったいないなあ」と感じた武田さんは、捨てられないためにはどうすればいいかを考えた。「当時の若者は『マニュアル世代』と言われていたので、コピー機の横にあった取り扱い説明書を取り出し、こんな感じの会社案内が作れないかなと提案したんです」
新たに作った会社案内では、会社はあくまでも「人生をおもしろくするための道具」という位置づけにし、「会社に使われるのではなく、会社を使いこなす人材を求む」というメッセージを込めた。
「『お使いになる前に』という項目で、イエスマンはいらないと記したんです。『故障かなと思ったら』には、『机に入っているチョコレートをそっとつまみ食いする』とか『とにかく飲んで歌いに行く』とか、『オフィスの電気を全部消して夜景を見る』とか、実際に社員がしているストレス解消法を紹介しました。内定をもらったら、最後にはんこを押すしかけにしたら、最後まで大事に持っていてくれる学生が増えました」