家事の基礎も習得 自立促した土佐中高の楽しい授業
村木厚子・元厚生労働事務次官が語る(下)
中高時代で一番苦痛だった経験は、ある日の席替えです。いつもは先生が強制的に席を決めていたんですが、今日は自由に決めていいと言うのです。ただ、女子が少なかったので、女の子同士で隣に座ってはいけない、とのこと。そうなると、隣に座ってくれる男の子を見つけなきゃいけないですよね。私は誰とも口はきかないし、みんな苦手だったから、もう自分はどうなるのかな、と思って。その時、私の隣に座ってくれた男の子がいました。小村君くんという子なんですけど、勉強はすごく良くできるし、バドミントン部だったかな? スポーツも万能の、学級委員長でした。彼が私の隣に座ったのをみて「あ、学級委員長が責任取ってくれたのね」と思いました。それが現在の(小村彰)校長です。彼は学校を卒業して母校の先生になっていたんですね。
席替えのとき、私はやっぱり口がきけなくて何にも言っていないけど、彼が自分の隣に座ってくれたということはずっと覚えていました。一昨年、土佐高の理事を頼まれたとき「実は次の校長は小村君だ。小村君を助けてやってくれ」と言われて、もう絶対断れないですよね。校是が「報恩感謝」なのですが、50年近く前のご恩をようやくここで返せるんだ、と思いました。ほんとに世の中ってよくできていますよね。学生時代から責任感が強くて、よくものが見えていました。小村さんが校長になると聞いたとき、生徒の気持ちに寄り添えるいい校長になるんだろうな、と思いました。
「育てる」とは、自分の道を探す手助けをすることだと思う。
自分自身、子どもを持って、人を育てることについて気づきがありました。2人目の娘が生まれたとき、上の子と全然違うのが本当におもしろかったんです。同じ親から生まれ、同じ家で育ったのに、どうしてこんなに違うんだろう。その子の持っているものってあるな。そう思った瞬間から、仕事で部下に優しくなれました。
その子が本来持っているものを大事にして、認めてあげることで、子どもは楽になって伸びる。親も「こうしなければ」と真面目に考えすぎてやってもなかなか思い通りにならないのだから「この子の持っているものはこの子の中にある」と考え、肩の力を抜いた方がいいと思います。
成長するって、自分なりの道を探していくプロセスなんですよね。自分に合ったこと、自分の好きなこと、自分が何とかやれることを迷いながら探していくプロセス。周りはそれを時々、横から手助けしたり励ましたりしてあげる、ということなのかな。土佐中・高はまさにそんな感じでした。手を出すのでなく、あいつの場合はこうなんじゃないの、と認めてくれて、自立させてくれましたね。
今は理事会で年3回は学校に戻るようになりました。進学校としての成果を上げなければならないし、難しい時代になっていると思いますが、「報恩感謝」や自由で自主性を尊重するという気風は残していきたい。振り返ったときにいい学校だったな、と思ってもらえる学校であり続けてほしいですね。
(ライター 高橋恵里)