ファッション・ビジネス「案内人」の壁を破る生き方
尾原蓉子著 「ブレイクダウン・ザ・ウォール 環境、組織、年齢の壁を破る」
米国留学、一冊の本との出合いが人生変える
著者が留学先に選んだのは、衣料品などの流通やマーケティングを学べるFITでした。そこで著者は、ファッションビジネスの教科書として書かれた「Inside the Fashion Business」という本に出合い、米国の素材メーカーと既製服メーカー(アパレル)、小売りビジネスのやり方や仕組みに目を開かれる思いをします。当時の日本では既製服の種類も量も少なく、リサーチもマーケティングもなかったのです。
この本を日本にも紹介したいという著者の熱意は旭化成を動かします。合成繊維「カシミロン」発売10周年の記念事業として、翻訳出版することになったのです。68年に「ファッション・ビジネスの世界」という題で世に送り出した本は、大きな反響を起こしました。当時、ダイエーの社長だった中内功氏は、本にほれ込み「これで勉強会をやってほしい」と要請。こうした声に動かされてか、旭化成はセミナーを始めることになり、著者はその企画・運営に打ち込みます。一冊の本との出合いが、その後のキャリアの方向性を決めていったのです。
「ベネトン」創業者のルチアーノ・ベネトン氏をはじめとする著名な経営者らも登壇したこのセミナーは結果的に28年も続き、先進的なファッション・ビジネスの考え方を日本に広めたのです。「ユニクロ」草創期の柳井正氏や「AOKI」の青木拡憲氏らも受講したといいます。
著者は、のちに日米のファッション業界の交流に果たした功績を評価され、米国で表彰されました。その式典でスピーチをしたときに当時を振り返って感慨を覚えたそうです。
(第3章 時代の変化を捉え、チャンスをつかもう――組織の壁 175ぺージ)
「プロ」だから生き残れる
大卒の女性が企業で働くのが一般的でなかった時代から、50年以上働き続けてきた著者は、常にプロであることを意識してきたといいます。
(第3章 時代の変化を捉え、チャンスをつかもう――組織の壁 127ぺージ)
多くのことに挑戦するなかで自分が何のプロになりたいのかを定め、道を探り、プロとしての修練を続けるなかで人生の道は開け、選択肢の幅がひろがっていくと著者は述べます。「人生100年時代」といわれるなか、自分の目標に向かって、壁を打ち破りながら、生き生き働き続けるためのヒントが詰まった一冊です。
◆編集者からひとこと 雨宮百子
著者の尾原さんに初めて会ったのは、アパレル関係のベンチャー企業の集まりでした。主に20~30代の出席者を前にした講演で、尾原さんは英語のスライド資料をパソコンでカチカチ切り替えながら、ニューヨークの最新ファッション事情を話していました。80歳近いとはとても思えないその姿に衝撃を受け、何度もお話を聞くことになりました。
話題はファッションにとどまらず、今までの人生とそこで得た学びにも及びました。それがとても面白く、「ぜひ今の時代を生きるビジネスパーソンにこれを伝えたい! 閉塞した時代に、時を経ても変わらない学びを文字にして、生きるヒントにしてほしい!」と思ったのです。
働くうえで性別や組織、年齢などの壁を感じることもあるでしょう。この本には、尾原さんが、そんな壁をどう打ち破ってきたかが描かれています。人生の切り開き方を学んでいただけたら幸いです。