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こうした貪欲な拡大策の背景には、当初の赤字をいとわず、将来収益が見込める分野や強化したい分野に積極的に投資するという独特の姿勢があります。実際、祖業であるネット通販でさえ、日本を含む海外部門は赤字続きです。17年の決算でみると、売上高の10%にも満たないクラウド事業「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」が営業利益の7割以上にあたる43億ドルを稼ぎ出しているのです。

こうした収益源があるからこそ、出店に多額の費用がかかり、採算が厳しいと思われる「アマゾン・ゴー」も展開できるのです。著者は、その狙いについて、次のように分析します。

 eコマースでは、「ある商品のページを何度も訪問しているのに買わなかった」「一度カートに入れたのに、最終的には購入に至らなかった」といったデータ収集が当たり前のように行われている。一方、実店舗においては、一切行われてこなかった。実店舗でもこうしたデータが収集できれば、その商品の購入阻害要因(価格、デザインなど)を探る上で大きなヒントとなりうる。
(第1章 消える店舗、消える店員――アマゾンがリアル店舗を再定義する 46ぺージ)

こうしてネット通販とリアルの店舗で得た消費者の情報を総合すれば、その行動は「見事に丸裸になる」と著者は指摘します。店を訪れた人に、ネットでしているような「おすすめ情報」を提示する、さらに人によって異なる値引きをするなど、小売業変革の可能性が見えてくるのです。

「アマゾン・サバイバー」への道は

では、小売・流通企業が生き残るには、どうすればいいのでしょうか。著者は、アマゾンが提供できない価値で存在感を示すほか、場合によっては協業で成長力を取り込むような柔軟な対応が必要と述べます。

たとえば、米コーヒーチェーン大手のスターバックスは、コーヒーの知識が豊富なコーヒーマスターからレクチャーを受けられる店舗やコーヒーに関連する書籍を集めた店舗などを増やしており、シアトルの旗艦店はテーマパークのような雰囲気といいます。実質的な創業者であるハワード・シュルツ氏が「スターバックスはコーヒーを売っているのではない。体験を売っているのだ」と言う通りです。

 値段だけを考えれば、コーヒー1杯が300~400円というのは、決して安くはない。しかし、消費者はスターバックスの店舗で過ごす、リラックスできる時間の対価として、この価格を受け入れ、料金を支払う。
(第3章 ショッピング・エクスペリエンス――リアル店舗の生き残りの鍵 106ページ)

一方、アマゾンのAIスピーカー「エコー」では、スターバックスは協力・利用の道を選んでいます。アマゾンの音声認識サービス「アレクサ」と自社のウェブサービスとを連携させるようなソフトを開発。あらかじめ近くの店舗と好みの飲み物を設定しておき、エコーに「スターバックスに、いつものドリンクをつくっておいてと連絡して」と言うと注文が通り、並ばずに受け取れるサービスを実現しているのです。

本書では、ほかにもスポーツ用品のナイキや高級アパレルブランドのレベッカ・ミンコフなど、様々な企業の生き残り策を多数の写真とともに紹介しています。米国で起きていることは、日本にもすぐやってくるでしょう。その意味で「少し先の未来」をのぞくような読み方もできる一冊です。

(雨宮百子)

◆編集者からひと言 赤木裕介

著者の城田真琴さんには、2018年1月刊行の「大予測 次に来るキーテクノロジー」という本を書いていただきました。ブロックチェーンやAIなど8つの新技術について、最先端動向と未来予測を解説した書籍です。この本に、紙幅の都合で入りきらなかったコンテンツをベースにしてできあがったのが本書「デス・バイ・アマゾン」です。

ロジテック、ファッションテック、リテールテックなど、流通やサービスを変えるさまざまなテクノロジーを「アマゾン」を軸に紹介しました。城田さんがアメリカ取材で得た最新情報も盛り込んでいます。

アマゾンの実店舗を巡っての感想は、「リアル×テクノロジー」の進化スピードのすごさ、ということでした。これはどこの業界でもあてはまる話です。これからのビジネスの先行きを見通す意味でも、すべての業界の方にお読みいただきたい一冊です。

 一日に数百冊が世に出るとされる新刊書籍の中で、本当に「読む価値がある本」は何か。「若手リーダーに贈る教科書」では、書籍づくりの第一線に立つ日本経済新聞出版社の若手編集者が、同世代の20代リーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介します。掲載は原則、隔週土曜日です。

デス・バイ・アマゾン テクノロジーが変える流通の未来

著者 : 城田 真琴
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,728円 (税込み)

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