「くまモンの父」の段取り術 ポイントは定型手順
「いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書」 水野学氏
気をつけたいのが、段取りの形骸化だ。段取り優先の流れ作業になると、会議はスケジュール通りでも肝心の議論が深まらないといった問題が起きるおそれがある。水野氏は、これを避けるのに「言葉の精度を高めていくことが役に立つ」と指摘する。プロジェクトのゴールを「収益アップ」のように漠然と決めるのでなく、達成時期や利益、売上高まで、きっちり議論する。その過程で参加者の問題意識を擦り合わせておけば、先々の食い違いや空中分解を避ける利点もあるという。「アクシデントに強いプロジェクトに育てるためにも、最初の段階で妥協しない段取りが重要になってくる」(水野氏)
「いい人」は段取りがヘタ?
「仕切り屋」と呼ばれるような段取り上手や「要領がいい」とほめられる人は、生まれつきなのだろうか。水野氏は、段取り力は「後天的に養える」と考える。水野氏自身、大学を出て働き始めたころには、仕事の量が膨大でつらい思いをしたという。しかし、今では社員に段取りを指導する立場だ。
水野氏は「性格のいい人ほど段取りがへた」と指摘する。仕事を頼まれると断れず、他人に回すのも及び腰。全部自分で抱え込んでしまい、自分のペースを乱してくたびれ果てていく。「締め切りまでにできそうもないことには、はっきり『できません』と断るべきだ。ノーと言うのも段取りの力だ」(水野氏)
段取り下手の人には、仕事の「手離れ」が悪い傾向もあるという。書類の提出間際まで手直しを重ね、次の仕事に割く時間が減って、ますます追い込まれていくパターンだ。水野氏は「締め切りは絶対。きちんと締め切りを決め、先延ばしにしないことがペース管理につながる。完成度の高さなどについては、あきらめも肝心だ」と説く。
段取り力を高めれば、働く環境の改善も期待できそうだ。プロジェクトの終了時期があらかじめ予測できるから、休みの予定も立てやすい。仕事の手際がいいと取引先からの信頼も高まり、継続的な受注につながる。働き手を確保しやすくなり、職場にも余裕が生まれる。グッドデザインカンパニーの場合、段取りのよさがこうした好循環のベースになっているという。水野氏は社員にも「何歳までにどんな仕事に就いていたいか」といった質問を投げかけ、キャリアと人生の段取りを促しているそうだ。