「指揮者はCEO」 N響・外国人トップの組織管理術
NHK交響楽団 首席指揮者 パーヴォ・ヤルヴィ氏(上)
「CEOが業績不振の責任をとって辞任するように、指揮者もコンサートが振るわなければお払い箱です。そこまで一緒です」
バーンスタイン氏は「優しく厳しい」リーダー
――企業経営者と同様、指揮者にも良い指揮者とそうでない指揮者がいるかと思いますが、良い指揮者の条件は何ですか。
「2つあります。一つは、当然ですが、音楽に関する高い才能です。もう一つは、人としての資質です。具体的には、オーケストラの奏者たちと良好な関係を築きながら一緒に仕事ができる才能です。いくら音楽の才能があっても、必ずしも人としての資質が備わっているわけではありません。そこが難しいところです」

バーンスタイン氏(右)の指導を受けるヤルヴィ氏=ヤルヴィ氏提供
「総勢100人規模になるオーケストラの奏者は、みな選ばれし者だけに、個性の強い人たちばかりです。一流の音楽学校を出ているので、技術には自信を持っており、プロ意識も高い。音楽に関しては頑固な面もある。そんな奏者たちと良好な関係を築きながら一緒に仕事をしていく能力がないと、良い指揮者にはなれません」
――具体的には、どのようにして良好な関係を築くのでしょうか。
「首席指揮者の場合、1シーズンのうち12~14週間ほど、そのオーケストラのメンバーと一緒に仕事をします。その間に時間をかけて互いを理解し、信頼関係を築いていきます。信頼関係の構築に近道はありません」
「現実には、奏者はプロ意識の高い人たちばかりですから、そうひんぱんに問題は起きませんが、まれにプロ意識に欠け、傲慢で、人の話を聞かない人がいます。そういう人をどう上手にマネジメントできるかが全体のパフォーマンスにも影響してきます」
「オーケストラのメンバーとの人間関係をどう築いていくかは、音楽学校では教えてくれません。私もそうでしたが、日々の仕事の中で、失敗を積み重ね、試行錯誤しながら、身につけていくしかないのです」
「正直、今の私は、かなり経験も積んでいるので、オーケストラの奏者と信頼関係を築くのも、問題奏者をうまくマネジメントするのも、それほど苦ではありあせん。むしろ楽しんでやっています」
――若いころ、伝説の指揮者レナード・バーンスタイン氏に師事しましたね。
「彼はカリスマ性があり、まさにスターのような存在でした。常に大勢の人が彼をとり囲み、彼の一挙手一投足を追い、彼の言葉に耳を傾けました。バーンスタイン氏は、人を引き付ける才能に非常にたけていました」
「リーダーとしても非凡な才能を持っていました。彼は自分の弟子や部下たちにいつも優しく接しつつ、同時に、常にプロとして高いレベルのものを要求しました。一言で言えば優しく厳しいリーダーでした」