「指揮者はCEO」 N響・外国人トップの組織管理術
NHK交響楽団 首席指揮者 パーヴォ・ヤルヴィ氏(上)
――そんな恩師から何を学びましたか。
「全てです。技術的な面もたくさん学びましたが、リーダーシップに関しても多くを得ました。彼の指導方法の特徴は、個々のモチベーションを高めることで、全体のパフォーマンスを上げるところにあります」
「例えば、私の指揮を一通り見たあと、『グレート、センセーショナル、ファンタスティック』などと褒めちぎり、思い切り持ち上げます。しかし、その直後に必ず、『でも、ここはこうしたほうがいい』とか『次はこうやってみなさい』などと、厳しく注文を付けてきます。そうした厳しい注文も、褒められてよい気分になっているので、素直に聞き入れることができるのです」
「そんな彼の指導スタイルが私は大好きでした。部下のモチベーションを高めることができるのは、優れたリーダーの条件だと思います」
威圧的な指揮者のイメージは過去のもの

指揮者の仕事は多岐にわたると語る
――よく、良い経営者と偉大な経営者は違うと言います。それに例えれば、バーンスタイン氏やヘルベルト・フォン・カラヤン氏は、誰もが認める偉大な指揮者です。良い指揮者と偉大な指揮者の違いは何ですか。
「それに関しては私もわかりません。数字で測れるものではありませんし、決まった型があるわけでもありません。多分に主観的なものだと思います。もし、良い指揮者と偉大な指揮者との違いをきちんと説明することができるなら、もっと多くの偉大な指揮者が存在しているに違いありません」
――ヤルヴィさんの指導や指揮スタイルも恩師であるバーンスタイン氏のスタイルを踏襲しているのでしょうか。
「指揮者の中には、例えばリハーサルがうまくいかないと、大声で怒鳴り散らす人もいます。私はそういうやり方は好みません。そんなことをしても、絶対によい結果は得られないからです」
「指揮者が威圧的な態度だと、奏者のモチベーションは上がりません。モチベーションが上がらなければ、演奏にも響く。相手を脅して言うことを聞かせようとするのは、非常に非生産的なやり方です」
「時代も違います。何十年も昔は、奏者に対し礼を欠いたり、権力を振りかざして言うことを聞かせようとしたりする指揮者も大勢いたかもしれません。社会もそれを許していました。しかし、今の時代、そういうやり方は、社会に受け入れられません」
旧ソ連(現エストニア)生まれ。米カーティス音楽院を出て、シンシナティ交響楽団音楽監督、パリ管弦楽団音楽監督などを歴任。現在はNHK交響楽団首席指揮者、ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団芸術監督などを兼任する。
(ライター 猪瀬聖)