オーケストラにもお国柄 N響指揮者の対話法とは
NHK交響楽団 首席指揮者 パーヴォ・ヤルヴィ氏(下)

N響首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィ氏は柔軟なコミュニケーション能力の大切さを強調する
世界的な指揮者のパーヴォ・ヤルヴィ氏(55)。指揮者を企業の最高経営責任者(CEO)に例える同氏は、相手に応じた柔軟なコミュニケーション能力が指揮者には欠かせないと指摘し、また、クラシック界の将来のためにも女性指揮者の育成が大切と強調する。(前回の記事は「『指揮者はCEO』 N響・外国人トップの組織管理術」)
ドイツ、フランス、米国でこんなにも違う
――様々な国のオーケストラを指揮していますが、国によってコミュニケーションやリーダーシップの取り方も変えるのでしょうか。
「お国柄の違いは明確にあります。指揮者は、常にその違いを頭に入れて指揮しないと、ベストのパフォーマンスを引き出すことはできません。でも、実際にやってみると、それほど簡単ではありません」
「例えば、ドイツのオーケストラは、奏者らが何らかの理由で指揮者のことを嫌っていても、とりあえず指揮者の言うことに従い演奏します。これは、ヒエラルキー(序列)を重んじるドイツ人の国民性からきているのだと思います」
「同じ欧州でもフランスは全く違います。フランス人は権力全般に対し愛憎相半ばする感情を抱く国民性です。指揮者に対する奏者の気持ちも同様で、指揮者を頼りにする半面、指揮者の言葉には本能的に反発します。従って、なかなか言うことを聞いてくれません。ではどうするかというと、自分は自発的にそうしているんだと相手に思わせるような言い回しで指示を出します。上手に導くのがカギです」
「米国人はもっと簡単です。彼らは現実主義者なので、シンプルで明確な指示を出せば、その通りに動きます。ただ、米国の奏者は基本的に、指揮者は自分たちの敵だと思っています。これには歴史的背景があります。米国では、20世紀半ばに、威圧的な指揮者による権力の乱用が問題になりました。このため労働組合運動が活発化し、指揮者を含むマネジメント側と、奏者の対立がしばらく続きました」
「米国では学校でも、指揮者は敵だ、マネジメントは敵だと教えられます。それが若い奏者の頭の中に刷り込まれているのです。今は、権力の乱用も指揮者と奏者の間の対立もありませんが、集団としての記憶は残っています。米国で指揮する時は、こうした米国の歴史に注意する必要があります」