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――グローバル経営でコミュニケーション能力が重視されるビジネスの世界同様、オーケストラの世界もリーダーに必要なのは、やはりコミュニケーション能力ということなのでしょうか。

日本人は信じがたいほど序列を意識

N響を指揮するヤルヴィ氏(T. Mochizuki/NHKSO)

N響を指揮するヤルヴィ氏(T. Mochizuki/NHKSO)

「その通りです。自分がこれから指揮するオーケストラのメンバーが、こちらの態度や言葉づかいにどう反応するかを素早く感じ取り、最善のコミュニケーションの方法を選択することが、指揮者にとって極めて大切です」

「ただし、相手に配慮しすぎて必要なことをきちんと伝えることができなかったら、それもまた指揮者としては問題です。オーケストラの奏者はみな高いプロ意識を持っています。向上心もあります。ですから、自分に足りないところやおかしなところがあれば、正直に指摘してもらえることを望んでいます」

「にもかかわらず、指揮者が関係をギクシャクさせたくないがために、例えば、誰が見ても出来が悪いのに『今日はよかった』などと明らかなウソをついたら、逆に関係を悪化させます。いかに相手の尊厳を踏みにじることなく、言いたいことを相手に伝えるか。その能力が指揮者には求められているのです」

――とはいえ、指揮者も人間ですから、奏者があまりにも言うことを聞かなかったりミスを繰り返したりした時に、キレることがあるのではないですか。

「人間はミスをするものです。私もミスをします。ですから、ミスには寛容な姿勢が大切です。ただ、あまりにも同じ人間がミスを繰り返すようなら、そこは別の対応を考えなければなりません」

「指揮者ができることは、まず、本人とじっくり話をし、原因を探ることです。何か精神的な問題があるのかもしれないし、家庭の事情で練習ができないのかもしれない。とにかく話し合いが大切です。その上で問題が解決できなければ、解雇という選択肢も可能性としてはありますが、現実問題としては非常に難しい」

「米国のオーケストラで指揮をしていた時、期待していたパフォーマンスを発揮することができなかった奏者に、結局、辞めてもらったことがありました。しかし、これは例外的なケースです。人事問題は、一般の企業同様、答えを見つけるのが非常に難しい問題です」

――日本のオーケストラも長年指揮していますが、日本人に対してはどんな印象を持っていますか。

「指揮者にとっては、日本は非常にやりやすい国です。なぜなら、日本人は信じがたいほど強い序列意識の持ち主だからです。どの楽団にも明確なリーダーシップの序列があり、メンバーは組織内の序列に常に注意を払いながら行動します。ですから、われわれ指揮者の話も素直に聞いてくれます。フランスでは絶対にあり得ないことです」

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