パワハラ・セクハラどう防ぐ 安易なNG集は逆効果
「パワハラをなくす教科書」 和田隆氏
ただ、こうした「NGワード集」「問題になる振る舞いの例」のような言動・行動規制は、わかりやすい手引きとなる半面、危険もはらむという。どこかに線を引けば、その手前ぎりぎりまでOKという誤った解釈も生まれかねないからだ。和田氏は「なかにはグレーゾーンで、極めて不愉快な言動を試すような人も出てくる。言動を制御することが、ハラスメント対策・防止策の本質ではないと知るべきだ」とくぎを刺す。
世代間のギャップ、管理職のおびえ生む
ハラスメント問題を考える上では、世代間のギャップも一つのポイントだ。現在の若い働き手は、40~50歳代のベテランより「ストレス耐性」が低いと、和田氏は分析する。幼いころから叱られ慣れていない若い世代は、上司の「軽い注意」でもダメージを受けやすい。経営層・管理職世代の「俺たちの新人時代はもっとひどかった」という感覚は通用せず、「鍛えてやる」といった親心も理解されにくいようだ。
ハラスメント問題が意識されるようになり、上司の側にはおびえも見え始めているという。「『へたに部下を指導できない』と考え、仕事を抱え込む上司も増えていて、ハラスメント解決手順が別のひずみも生んでいる」(和田氏)。「自分たちは勤め先に守られていない」と感じ始めた上司層が、部下と距離を置くという自己防衛策を選択すれば、情報やノウハウも伝わらず、「結果的に人材が育ちにくい構図にもなりつつある」という。
ハラスメントに苦しむ働き手や萎縮する上司を減らすには、どうすればいいのか。和田氏は「加害者と被害者というピンポイントで『小さく処理する』という考え方を捨てる必要がある」と話す。法務や総務、人事などの部門が「事を収めるプロ」として内密に片付けてしまうのではなく、プライバシーには十分気を配りながら、問題の背景にまで踏み込んで幅広く議論する。こうした努力が、ハラスメントを生まない「健康経営」には必要なようだ。
メンタルプラス代表取締役。旅行会社、スポーツクラブ運営会社を経て、メンタルヘルスケア業界へ。ハラスメントやメンタルヘルス、コミュニケーションなどをテーマに民間企業、官公庁、教育機関などでカウンセラー、コンサルタントを務める。