V9の原点は4年生の雑用 帝京大ラグビー監督の指導
帝京大学ラグビー部の岩出雅之監督(上)

帝京大学ラグビー部の岩出雅之監督
ラグビーの全国大学選手権で9連覇と、史上最多を更新し続ける帝京大学。約20年前に就任した岩出雅之監督(60)は最初の10年間に全く勝てなかった反省から、トップダウン型から自ら考える組織へとチームを変革した。4年生が雑用をするなどユニークな指導論の本質に迫る。
トップダウン型の体育会組織が敗因に
――最初の10年は勝てなかったそうですね。
「その頃はトップダウンで厳しく指導していました。練習方法から生活のあり方まで、だらしない部分を正そうとしていたので、学生としては居心地が悪かったのだと思います。彼らなりにやってきたことと、私が必要と思うレベルとのギャップもあり、チームの一体感が持てず、一部の人間だけが頑張る組織になっていた。試合になれば誰もが本気になりますが、当日に本気になっても準備してないものは発揮できません」
――変えようとするきっかけは。
「10年間勝てなかったことも理由ですし、下級生が不満を持っている様子も感じていました。ある試合で『負ければいいのに』とつぶやいた学生もいた。トップダウンの体育会組織の体質が、そういうさみしい発言をさせてしまったのだと思います」
「当時は卒業生が日本代表に選出されても試合にはあまり出られなかったり、企業に就職しても力を発揮できなかったり。在学中にラグビーを頑張っても将来に結びついていかない。その原因は体力でもスキルでもなく、人間的な要素が足りないんじゃないかなと思ったのです」
――そこからどう変えたのでしょうか。
「監督が無理やり選手を成長させようとすると、結局は指示待ちになる。一人ひとりが自ら経験から学習して成長できるようにすれば、自律的に成長する組織になるんじゃないかと気づきました」
「理解力や仲間と連携する力など、素養として知性や人間性をしっかりと高めていくことの大切さを痛感したんですね。以前は中学や高校の教員をやっていましたから、それらが大事なことはわかっていたつもりでした。しかし実際はラグビーを中心とした生活を強いていた。もう少し彼らの人間的な成長を促すようなアプローチに変えていきました」