職場でキレず正しく怒れ アンガーマネジメントの本質
「アンガーマネジメント 品質管理は心の管理」 正木忠氏
正木氏は、こんな場面では「経緯を教えてくれないか」と部下に尋ねるよう勧める。怒りをぶつけるのではなく、冷静な態度で事態の解決や再発防止に協力を求める姿勢をみせれば、部下の反発を招きにくいだろう。「一緒に対応策を練ろう」などと、チームで動く提案も効果的だという。大事なのは、部下を追い込まないことだ。
怒鳴らず、うまく伝わる表現を考える
若い世代は、叱られること自体に慣れていないとされる。「親や教師にきつく叱られた経験の少ない世代には、仕事環境で怒鳴られることでショックを受けてしまう人が少なくない」(正木氏)。すべての怒りを抑え込む必要はなく、相手に無用なダメージを与えない「上手な表現スキル」を身につけるのが肝心だ。
上司の側が、怒らないために指導を放棄してしまうと、部下が成長するチャンスまで減ることになる。上司が蓄積してきたノウハウが伝わらずに途絶えてしまえば、企業にとっても損失だ。
正木氏はもともと国際標準化機構(ISO)の認証取得サポートを得意とする経営コンサルタントだ。本のタイトルに「品質管理は心の管理」とあるのもそれが理由だ。一般に工業製品の品質管理は手順や設備、精度などが重視されるが、正木氏はメンタル面のコントロールも重要と指摘する。働き手の心理状態が、最終的な製品・サービスの質の低下をもたらす可能性もあるというわけだ。
実例がある。2007~08年、冷凍ギョーザに有機リン系殺虫剤が意図的に混入された事件では、無期懲役の判決が確定している従業員(当時)が中国公安省の調べに「賃金や福利に対して不満があった。工場側に処遇を改善してほしかった」と供述し、容疑を認めたと報じられた。待遇への怒りが製品への攻撃に転じたと読み取れる。「怒りのコントロールは個人の問題にとどまらない。企業や組織の信頼やブランド価値にもかかわる」と、正木氏は指摘する。
職場に渦巻く「怒り」、原因は?
アンガーマネジメントは怒りという「行動」をコントロールすると思われやすいが、怒りに基づく行動だけをモグラたたき的につぶしていっても、問題が根本的に解決するわけではない。たとえば、職場の現実となじまない目標やルールが温存されていたり、日常的に大きなプレッシャーにさらされる環境では、イライラや業務への反発が募りやすくなる。
正木氏は「怒りの感情が職場にたまっていくと、ダムが決壊するようにあふれて、企業やブランドも傷つきかねない」と注意を促す。トラブルの再発を防止するには、怒りが生じる原因や背景にまで踏み込んだ取り組みを進める必要がありそうだ。