部下をもつのはリスクか 「プロ上司」待望の時代
「なぜか、やる気がそがれる 問題な職場」 見波利幸氏
悪者にされがちな上司の側にも同情すべき点はある。そもそも現場で数字を稼ぐプレーヤーと組織を動かし人材を育てるマネジャーの仕事は、大きく異なる。ところが、その切り替えに伴う管理職研修は、質も量も十分とはいえず、足りなければ「ビジネス書でも読んで自習せよ」という会社が多いのが現実だろう。これではマネジメントのスキルは身に付かず、「プロ上司」を目指す自覚も生まれにくい。
管理職の育成、企業にも手抜かり
見波氏は、管理職への昇格にあたってプレーヤーからマネジャーへの転身を果たせるかどうか、きちんと見極めるようシステムを見直すべきだと説く。現実にも、同期が一斉に管理職に昇進するような仕組みが崩れるにつれ、管理職向きの人材を起用しやすい雰囲気も生まれつつあるようだ。
見波氏は「昇格の候補者に、数年かけて管理職スキルを習得させられる環境が整い始めた。大企業の一部では既にこうした熟成型幹部教育を取り入れつつある」と話す。管理に向かない「一匹おおかみ」タイプには、部下がいないポジションを用意するような複線型幹部職制度も、併せて導入するのが有効だろう。
腕利きの営業職が1人で5000万円を売り上げるチームよりも、10人がそれぞれ600万円を稼ぐチームの方が持続可能性は高い。企業の安定的な成長を導くには、こうした「強いチーム」が望ましく、管理職はその支え手という役回りを期待される。
10人のメンバーを見渡して、心身の健康やモチベーションの維持などに力を尽くす。「サポートに特化する『サーバント型リーダー』が求められるようになってきた今は、本当の意味での『上司業』のプロが出世しやすい時代の始まりといえる」(見波氏)。そんな「プロ上司」の存在は企業の競争力を左右することになっていきそうな気配だ。
一般社団法人日本メンタルヘルス講師認定協会代表理事。外資系コンピュータ会社、野村総合研究所を経て、エディフィストラーニング(キヤノングループ)で主席研究員。2015年から現職。日本のメンタルヘルス研修の草分け的な存在で、研修や講演、カウンセリング、職場復帰支援などを幅広く手掛ける。1961年生まれ。