長男の「辞めない覚悟」が禅譲の決め手 カプコン会長
カプコンの辻本憲三会長兼CEO(下)
「娯楽の重要性はますます高まり、リアルの世界からバーチャルの世界へとお金の流れも変わるでしょう。そうなったときに何ができるか、今から常に考えておく必要があります。将来の市場変化を見据えて、経営陣にも新しい人材を加えていかなければなりません」
社内保育所「カプコン塾」を学びの場へ

2007年に社長職を長男の春弘氏に譲った=カプコン提供
――本格的に経営を譲るタイミングは。
「私が息子くらいの時にはカプコンはまだ小さくて自分だけの判断で先が見通せました。ただ、カプコンも大きくなって組織も複雑化しているし、勉強すべきことも増えています。知り合いの会社で、50歳代の2代目社長のことを先代が『まだまだだ』と言うのをよく聞きます。でも、そんなのは当たり前です」
「経営者の役割は、会社を持続させる仕組みをつくり上げ、後継者にもその仕組みをきちんと理解させ、実行できるようにすることです。役職だけ引き継いで終わりでは、変化の激しい時代に持続的な経営はできません。これ以上続けられないという体力の限界が来るまで、できるだけ長く一緒に走って背中を押してあげるべきです」
――技術革新がめざましいゲーム業界ですが、人材育成ではどんな工夫をしていますか。
「創造性を高めるよう、いろいろな経験をしてもらうことを心掛けています。例えば、1996年に発売したホラーゲームの『バイオハザード』。その少し前、伊丹十三さんが製作を総指揮したホラー映画をもとに別のゲームを開発しました。当社の開発者がホラーに関する新たな発想を得られ、バイオハザードでもリアルな恐怖感のある世界観を生み出せました。94年にソニーが『プレイステーション』を発売後、主流になった3次元映像のゲーム開発で出遅れましたが、この作品が巻き返しのきっかけになりました」
「ゲーム開発の能力は、やはり実践で鍛えるしかありません。私がやっているのは環境を整備すること。先ほど、60カ月マップの話をしましたが、それをもとに『52週マップ』という年度ごとの詳細な開発計画も作っています。開発者一人ひとりに週単位でプロジェクトを割り振り、余剰人員が生まれないようにしています」
「社員の失敗について、1回目では怒りません。数字をもとに問題点を指摘します。ただ、2回目に失敗したとき、問題点を理解できていなかったら怒ります」
――働きやすい環境づくりにも力を入れていますね。
「17年には本社のすぐ近くに社内保育所である『カプコン塾』を開設しました。塾と名付けたのは、未就学児だけでなく放課後の小学生も預かり、音楽を教育に活用するリトミックや算数などの学びの場を提供しようとしているためです。会社が終わったら引き取って一緒に帰ります。社員の子供が中学生になるまでは会社が面倒をみられるような体制を目指しています」