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「そ、そうですか、すみません。東京でこの内容で決裁いただいたものですから」と汗をかく私に、その方は、「井上くん、君んとこは○○万円で受注したいんやろ。ほなら、見積もりはそれに××万円くらい上乗せして出すんや。それを俺は役員に持って行って、『見積もりは△△万円ですが、それを○○万円に値引きさせました』とやるんや。それで役員も俺も手柄が立つ。キミも最終的に受注したい額で受注できる」。関西の値引き文化を法人取引で初めて感じた商談でした。

東京圏と関西圏、都市部とローカルで、仕事の進め方や値決めの仕方、時間感覚などが異なる経験は、読者の皆さんもお持ちではないでしょうか。海外赴任の経験がある人ならば、北米、欧州、アジア各国などで、それぞれ違った商習慣を経験しているでしょう。

国内外を問わず、地域の特性による社風の違いは、文化的な差異を除くと、大くくりにいって「ドライ」か「ウエット」かに分けられるように感じます。ビジネスライクに進めることが適している風土と、人間関係的な側面が非常に大事な風土。どちらが良い悪いではなく、あなたがどちらのタイプか、どちらの方が働き心地が良いかですから、ぜひ転職検討先が、自分のタイプと同じ傾向にあるか否かを確認してみてください。

「社長、オーナーのタイプ・意思決定スタイル」による社風の違い

ある中堅消費財メーカーは、ヒット商品を次々に出して業績絶好調のオーナー会社です。商品開発の天才であるご主人と営業・数字に強い奥様がワンツートップを務めています。そんな同社にかつて、経営者経験をお持ちのMさんが「ファミリー以外の経営陣」としてスカウトされ入社しました。

後継候補と言われ、やる気満々でしたが、いざ着任してみると、社内では朝から晩まで社長が社員たちを罵倒し続け、物も飛び交うという始末。いわく、「お前らはバカなんだから、俺の言うことだけ聞いてやっていればいいんだ。言うことを聞いていれば、いい生活はさせてやる」。実際同社は業界水準と比べて給与額は非常に高い。ただ、若手も中堅も幹部も、何かに主体的に取り組むことはできず、ともかくトップからの司令通りに駒として動くことが求められる……。

「なんで私をスカウトしたんだろうね」。最後までMさんは不思議がっていました。あまりの職場コミュニケーションの悪さに、なんとかトップをなだめ、現場社員たちと密に話をしながら風土改革を試みましたが、もちろんトップの性格が変わるということはありません。2年近く頑張った末に、別の会社に移籍しました。

極端な例を紹介しましたが、オーナー企業のトップダウンも「明確な指示を出してほしい」という人にしてみれば、どうすればよいか分かりやすくて良いという場合もあります。逆に社内政治で引き上げられたようなサラリーマン社長で、いつも周囲の意見にばかり頼り、何かトラブルが起きると参謀をトカゲの尻尾切りの尾にするような人だとすれば、付いていきたくないという人も多いでしょう。

富士フイルムHDの古森重隆会長兼最高経営責任者(CEO)

富士フイルムHDの古森重隆会長兼最高経営責任者(CEO)

もちろんオーナーだからといってトップダウンとは限りませんし、サラリーマン型の会社でも、イトーヨーカ堂・セブン-イレブンジャパンなどで長年トップを務めた鈴木敏文氏、写真フィルム事業からの大転換をけん引した富士フイルムの古森重隆氏のような超トップダウン型の経営者が率いているケースもあります。

いずれにしても、トップのリーダーシップスタイルは、その会社の意思決定やコミュニケーションのスタイルをかなりの割合で規定します。あなたが転職先として検討している企業は、経営者がどのようなリーダータイプか、しっかりチェックすることをお勧めします。

「直属の上司、同僚」による個別の問題も

3つの切り口から、確認・注意すべき社風タイプについて紹介してきましたが、最後に「直属の上司、同僚」に起因する個別の状況について触れておこうと思います。

こればかりは、個別の相性なのでいかんともしがたい部分があります。可能であれば、入社後の上長はどんな人か確認しておきたいですね。しかし、入社後に社長交代や上長の異動・退職などがあり、後任の人との相性が非常に悪くなってしまったために転職したいという相談も少なくありません。先の3つの切り口で会社全体としての社風フィットが高い転職先を選ぶことで、個別のミスマッチの発生を極力防ぐよう試みましょう。

転職先の社風が非常に重要なのと同じくらい、ミドル・シニア世代のあなたの「働き方、姿勢、価値観」が転職先企業に及ぼす影響もまた、とても大きなものです。ぜひ、新天地ですてきな風を吹かせてください。それがあなたの働き心地をよくするのですから。

※「次世代リーダーの転職学」は金曜掲載です。次回は3月15日の予定です。この連載は3人が交代で執筆します。

井上和幸
 経営者JP社長兼CEO。早大卒、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、リクルート・エックス(現リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。「社長になる人の条件」(日本実業出版社)、「ずるいマネジメント」(SBクリエイティブ)など著書多数。

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