デザイナー4千人束ねる 起業家が問うものづくりの形
TRINUS(トリナス) 佐藤真矢代表(上)
学生時代から、いずれ起業することを考えていた佐藤氏は、新卒で大和証券SMBC(現大和証券)に入り、ベンチャー企業の株式公開業務に携わる。その後、資金調達だけでなく事業の進め方も学びたいと考え、アクセンチュアに転職。IT(情報技術)や通信、半導体といった業種のコンサル業務を手掛けた。
障害者のつくる製品対象にデザインコンペ
転機となったのは、同社が社会貢献活動の一環として実施しているNPO団体の支援業務に携わったことだ。仕事で身に付けたスキルや知見を社会貢献に生かす「プロボノ」として10カ月間、NPO法人「難民を助ける会」で働いた。同会は東日本大震災の被災地支援にも乗り出しており、中でも障害者の就労支援に力を入れていた。
それまで障害者の働く環境についてほとんど知らなかったという佐藤氏。実際にクッキーやキーホルダーなどを作っている就労施設を訪れ、障害者の報酬が月に1万~1万5千円程度しかないことに衝撃を受けた。「一生懸命、丁寧に作業して作っているのに売れない。これは何とかしなきゃいけない」

アワードで最優秀賞となった手縫いのアクセサリー(equaltoのホームページから)
佐藤氏が着目したのはデザインだ。施設にはデザインを本格的に学んだ人材はほとんどいない。かといって、専門のデザイナーに依頼するには高い費用がかかる。どうすれば、もっとデザイン性の高い製品を低予算で作れるか。そこで思い付いたのが、世の中から幅広くアイデアを募り、優秀なデザインを表彰するコンペの開催だった。
ただし、障害者が作れるものでなければいけない。佐藤氏はNPOの仲間らと10カ所以上の施設を回り、どんな製品が対象になるか調べた。「ミシンを持っている、木工製品が作れるなど、施設ごとに特徴があり、中にはシルクスクリーンの印刷ができる施設もあった」。募集するデザインの対象が決まると、チラシを作り、メディアに告知し、審査する会場を押さえるなど、すべて自分たちで準備した。
「ART CRAFT DESIGN AWARD」と名付けたコンペでは、募集期間1カ月余りで382点ものデザインが集まった。木と障子紙でできた貯金箱は、お金を取り出すときに障子を破って取り出すアイデアが楽しい。木で作ったてるてる坊主は、つり下げるとオシャレなインテリアにもなる。最優秀賞は白地の丸い布に手縫いでアートのように自由に刺しゅうするアクセサリーだった。