パワハラ対応、被害者守るのが第一 自覚ない上司多く
産業医・精神科専門医 植田尚樹氏

パワハラは被害者が言い出せず問題が長引きやすい。写真はイメージ=PIXTA
社員がいきいきと働き、高いパフォーマンスを発揮する職場をつくるには何が必要か。産業医として多くの企業で社員の健康管理をアドバイスしてきた茗荷谷駅前医院院長で、みんなの健康管理室合同会社代表社員の植田尚樹医師に、具体的な事例に沿って「処方箋」を紹介してもらいます。
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2回目は職場で強い立場にいる人(上司)が嫌がらせをするパワーハラスメント(パワハラ)により、心身の不調に陥ったケースです。そうした上司は自らに問題があると自覚していないことが多く、本人も言い出せずに問題が長引いてしまいがちです。
部下にも同様のパフォーマンス求める
サービス業の営業部門で働くCさん(20代男性)は入社3年目。よく眠れず、食欲もない、ときどき腹痛もすると訴えて、9月初めに社内の診療所にかかりました。原因に心当たりはあるかと聞くと「4月に新しい(上司である)マネジャーが着任して3カ月ほどたった頃から、よく眠れなくなった」といいます。
そのマネジャーは30代半ば。若いときから営業成績がよく、社内表彰を何度も受けてきた、いわばエリートでした。その半面、部下にも自分と同様のパフォーマンスを求め、厳しい指導をしていました。管理職になってからは部門の数値目標達成のプレッシャーからか厳しさに拍車がかかり、ときには怒鳴ることもあったようです。
Cさんはその部門では若手に属し、営業成績は中の下くらい。ただ、おとなしい性格が災いし、マネジャーに詰問されることが増えていました。Cさんばかりが怒られ、同僚からも「最近、上司の当たりがきついね」と言われるほどでした。
「なんでこんなこともできないんだ。ばかでもできるぞ」。そう言われても反論できないと思う半面、ほかの社員のいる前で、あるいは飲み会の席で言うことはないだろうとの不満も募っていました。具体的に「こうすればどうか」といったアドバイスもしてくれないと診療所の医師にこぼします。
最近では朝4時30分ごろに起きてしまい、ときには3時に目が覚めて眠れなくなることもあるとのこと。当然、午後には強い眠気に襲われ、業務にも差し支えていました。本来なら気付くべきミスにも気付かず、それを叱責されることで、ますますストレスを感じるという悪循環に陥っていたのです。