パワハラ対応、被害者守るのが第一 自覚ない上司多く
産業医・精神科専門医 植田尚樹氏
産業医でもある診療所の医師はメンタルが原因で体調不良を訴えているのではないかと考え、すぐに精神科クリニックを受診するよう話しました。2週間に1回通院することになりましたが、2カ月たっても体調はなかなか回復しません。その間もマネジャーからのパワハラは続き、「おまえみたいな使えないやつはクビだ」との暴言も。結局、産業医と人事総務部門が協議し、Cさんは休職することになってしまいました。
今回のケースは様々な問題を含んでいます。
一つは当然ながら、Cさんに対するマネジャーの言動です。同僚らの前で「使えないやつ」「クビだ」といった暴言を浴びせること。これは厚生労働省が示すパワハラに関する6つの行動類型の一つである「精神的な攻撃」にあたります。通常の業務に必要な指導とは考えられないからです。
パワハラの加害者には自覚がないことが多い

パワハラしている本人は自覚がないことが多い。写真はイメージ=PIXTA
Cさんに対して、明確な改善指導をしていなかったことも問題です。部下を育成することも管理職の職務のはずですが、このマネジャーは怠っていました。部門の数値目標を達成する、つまり自分の成果ばかりに目が向いていたといわれても仕方ないでしょう。
ところが、パワハラをしている側には自覚がないことがほとんどです。Cさんが休職するにあたり、マネジャーに事情を聞いたところ、やはり精神的な負担をかけていたという自覚はありませんでした。それどころか、自分はCさんのことを思って叱咤(しった)激励していた、上司として当たり前のことだと思っていた、というのです。しかし、Cさんには上司の怒りや嫌みや不機嫌などの感情だけが伝わり、業務で直してほしい点や注意すべき点など肝心のポイントが伝わっていませんでした。
もう一つの問題は対応が遅れ、休職にまで至ってしまったことです。まず本人が精神的な苦痛を受けている段階で人事総務部門や診療所の医師に相談できず、体調を悪化させてしまった。周りの同僚も気付いていながら、見て見ぬふりをしていました。
実際には、上司が厳しく叱責していても、それが本当にパワハラに当たるのかどうか見極めるのは難しいですし、部下の立場で上司に行動を改めるよう進言するのも躊躇(ちゅうちょ)する人がほとんどでしょう。
では、どうすればパワハラによる被害を防ぐことができるのでしょうか。