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まず、被害者の心身の健康を守ることを最優先に考えることです。相談窓口を設けるだけでは不十分で、被害者や周りの人が相談しやすい環境を整えることが重要になります。そして心身の不調が上司との人間関係にあると判断できたら、すみやかに別の部署に移すことが望ましい。精神科に通院したり、服薬したりしても、同じ職場で勤務している場合は改善しないことが多いからです。

すぐに異動ができない場合は、いったん休職することも選択肢の一つです。Cさんの場合も3カ月ほど休職した後、別の部署に復職しました。現在も通常の勤務を続けています。

加害者のほうを異動させるべきだとの考え方もあります。ただ、実際に現場をいくつも見てきた経験からいいますと、管理職を異動させるには時間がかかるのが実情です。

被害者に対して「あれくらい耐えられないのか」「メンタルを鍛えるべきでは」と思う人がいるかもしれません。もちろん、被害者と上司の双方に言い分を聞いて事実関係を把握したり、産業医が症状を見極めたりすることは不可欠です。しかし、心の苦しさは本人にしかわからない面もあります。今回は復職できましたが、最悪の事態を招かないことを第一に考えるべきです。

上司も心身の健康にもっと留意を

もう一つは管理職を加害者にさせないための工夫です。繰り返しになりますが、パワハラの加害者には自覚がない場合がほとんどです。どんな言動がパワハラの対象になるか、そもそも上司の役割とは何か、教育や指導を徹底することが欠かせません。

特に、自分の想定よりも部下の成果が上がっていない場合、厳しさと同時に寛容さを持って指導することが望まれます。「あれもできない、これもできない」と100から引く減点法でなく、「あれはできる、これはできる」と0から足していく加点法で良いところを見つけていく柔軟性を上司は持ちたいものです。

同時に、上司自身が心身の健康維持をもっと心掛ける必要があると感じます。パワハラの加害者にはいくつかのタイプがあります。

自分のストレスを部下にぶつけてしまう「欲求不満型」。部下が自分より有能であることを認めたくない「嫉妬型」。成果を出せず怒ることで存在感を示そうとする「虚勢型」。一人を怒鳴ることで周りを従わせようとする「見せしめ型」などです。

管理職自身も様々なプレッシャーを受けながら働いています。ストレスに耐えきれず、部下との適切な人間関係を築けなくなった結果、上記のような行動に出てしまうこともあるのではないでしょうか。例えば、怒りっぽくなったと感じたら、業務量や睡眠時間、飲酒量などの生活習慣を見直してもらうことも必要です。

政府は3月上旬、企業にパワハラを防ぐ措置を義務付ける法案を閣議決定しました。成立すれば、相談窓口やパワハラをした社員への処分に関する規定を就業規則に設けることなどが求められます。規則を整えるだけでなく、実効性のある対策を常に考え続けることが大切なのは言うまでもありません。

※紹介したケースは個人が特定できないよう、一部を変更しています。

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植田尚樹
 1989年日本大学医学部卒、同精神科入局。96年同大大学院にて博士号取得(精神医学)。2001年茗荷谷駅前医院開業。06年駿河台日大病院・日大医学部精神科兼任講師。11年お茶の水女子大学非常勤講師。12年植田産業医労働衛生コンサルタント事務所開設。15年みんなの健康管理室合同会社代表社員。精神保健指定医。精神科専門医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。

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