社外で評価される人になる プロ経営者・松本氏の原点
カルビー元会長、RIZAPグループ取締役 松本晃氏
45歳で辞めて、「きっと私を買いに来る」と思っていたら、案の定23社から誘われました。外の人はよく見ていてくれていたのです。その中で良さそうな会社が2、3ありました。そのひとつが医療機器を扱うJ&Jメディカル(その後、合併してJ&Jに)でした。
悪弊を捨てる それが成長の秘訣
組織には規模にかかわらず、いいところと悪いところがある。伊藤忠では商社の長所と短所を学びました。次のJ&Jでは、いいところが多かったけれど悪いところもあった。それで学んだのは、悪い部分をやめ、いい部分を取り出せば成功するということです。
09年にカルビーに転じたときも、悪い部分の棚卸しから始めました。ちょうど創立60年を迎える時期でしたから、「過去60年でできていなかったところ、悪かったところはやめる。よかったところは続ける」と指示したのです。それで高い成長軌道に乗りました。
肝心なのは全否定しないことです。過去から続いてきたものをすべて否定したら、どんな会社でも潰れてしまいます。いいところの全くない会社、人間はいないし、全部いいという組織、人もいない。だから、いいとこ取りすればビジネスは成功し、人は生き生きと働くのです。
僕が生まれたのは1947年で「団塊の世代」のピークです。自分も含めてですが、この世代は考え方と行動が徹頭徹尾、プラグマティック(実際的)です。超現実主義といってもいい。この性格は個人というより、時代の問題ですね。そうでなかったら僕たちの世代は生きてこられなかったのでしょうね。僕は少し極端かもしれませんが(笑)。
外からの評価にたえる人間になろうと思ったのも、こんな背景からだろうと思います。内部の評価を全く気にしなかったのは、社内では自分の周囲に優秀な人間がいても評価せず、妬むだけだと思っていたからです。男は極端な嫉妬の世界に住んでいます。欲が深い。金にこだわる。地位とか身分、権力にこだわる。それはどこの組織も同じです。
僕もそうしたものにこだわって生きてきました。人間はそんなもの、世の中そのようなものだと思っているから適当にバランスを取って、嫉妬の心をコントロールしてやってきたわけです。極端なことはやらない。要するに現実主義者なのです。
こういう話は、最近の若い人にはどう響きますかね? 先日亡くなった評論家の堺屋太一さんが「最近の若い者は3Yだ」と言っていました。「欲なし、夢なし、やる気なし」です。それも時代でしょう。でも鎖国していた江戸時代と違い、今の若い人たちは世界と比較され、ぼーっとしているといいところをさらわれる時代に生きている。いやが応でも競争せざるを得ないのです。「何か勝ち取ったら、何かいいことあるよ」。皆さんが、私の話から何かくみ取っていただけたら、これほどうれしいことはありません。
(2)お客が1番、社員が2番 給料上げる経営とJ&Jの教え >>
1947年京都府生まれ。京都大学大学院修了後、伊藤忠商事入社。93年にジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)日本法人に転じて社長などを歴任した。2009年にカルビーの会長兼最高経営責任者(CEO)に就任。停滞感のあった同社を成長企業に変え、経営手腕が注目されるようになった。11年には東証1部上場を果たし、同社を名実ともに同族経営会社から脱皮させた。18年に新興企業のRIZAPグループに転じたのも話題に。
(シニアライター 木ノ内敏久)