20代が辞めない職場 上司は報告メールもマメに返信
『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』 平賀充記氏
何でもネット検索で「正解」が見つかる――。こんな風に思い込みやすい一部の20代に対しては、平賀氏は年上の世代への歩み寄りを求める。一方的な命令に聞こえる指示にも、実は貴重な暗黙知が宿っていることは珍しくない。電話の応対術や取引先訪問の手順などがその例だ。過去の経験を踏まえて先輩たちが練り上げてきた一種の「様式美」であり得る。
しかし、「だから、言われた通りにやれ」では若手には伝わらない。「なぜ、こんな手順になっているかといえば~」と上司や先輩がかみ砕いて説明してやれば、20代も納得して従いやすくなる。彼らはむやみと反発したがっているわけではない。求めているのは「説明と納得」なのだ。
暗黙知に終わらせない
かつての上司や先輩から「形」だけを押しつけられた世代には、残念ながらロジックや意義をきちんと説明できない人もいるだろう。「空はなぜ青いの?」と子供に尋ねられて、返答に困ってしまう親のような立場になりかねない。だが、そこで「うるさい」と声を荒らげてしまっては、部下も子供も心が離れてしまいそうだ。暗黙知に終わらせず、意味や効果を調べて説明する態度が「リスペクト」と「信頼」につながる。社内の常識に染まっていないアウトサイダーの知見は、マーケティングの世界では有償で買い求めるほど価値が高い。社内の無駄な慣習を見直したり、有意義な経験値を「見える化」したりするうえでも意味があるから、「うるさい」は禁じ手にするのが望ましいだろう。
旧日本海軍で連合艦隊司令長官を務めた山本五十六の残した「やってみせ 言って聞かせて させてみせ ほめてやらねば 人は動かじ」は人材活用の要諦を示した名言とされる。だが、業務に追われる仕事の現場でそこまで上司が時間を割くのはなかなか難しい。ただし「手取り足取りまではできなくても、基本的な原理を教えたり、貴重なエピソードを自慢抜きで語ったりはできるはず。やはり歩み寄るのは、上司の側からでありたい」(平賀氏)。個々で異なるモチベーションを見極めて適切にプロデュースするのも上司の役割。「出世」「社内評価」などの汎用型ニンジンをぶら下げておけば勝手に走ってもらえたのは、もう昔の話だ。
部下からもらった報告メールに「ありがとう」「後で詳しく」などと短く返信しておくだけでも、部下の疎外感をやわらげる効果は見込める。「既読スルー(メッセージを読んでおきながら、返事をしない態度)に不快感を覚える世代の意識に見合った振る舞いが今の上司には求められている」と平賀氏はいう。「俺は忙しいんだ」と言い訳はしない方が良い。細やかな目配りや親身な心配りが、「突然辞める若者」を増やさないうえでは大事とみえる。問われているのは、上司の側にそうしたマインドセットを用意する企業側の姿勢なのかもしれない。
ツナグ働き方研究所所長。ツナググループ・ホールディングス エグゼクティブ・フェロー。1963年長崎県生まれ。同志社大学卒。88年リクルートフロムエー(現リクルートジョブズ)入社。人事部門で新卒採用を担当後、各地域版「FromA」の編集長を歴任。2008年から「タウンワーク」「とらばーゆ」などの全国統括編集。12年リクルートジョブズのメディアプロデュース統括部門担当執行役員。15年にツナグ働き方研究所設立。著書に『非正規って言うな!』など。