変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

魅力を知った山本氏は「押しかけ」的にアプローチして、日本連絡事務所代表に認められた。しかし、当初、ミネルバ大側はあまり乗り気ではなかったという。「日本をマーケットとして有望だと見ていなかった。だから、『そんなに熱心なのであれば』といった感じでのオーケーだった」(山本氏)。このあたりの応じ方にも、徹底したコスト意識がうかがえる。限られたマーケティング資産を、最も効果的に投入するためには、世界第3位の経済大国であっても、優先順位を下げる。教育機関をきちんと「経営」しようという、冷徹なほどのジャッジを感じさせる。

本部が日本で留学生獲得を働きかけてくれないから、自らあちこちへ売り込んで、ミネルバ大の知名度を上げていった。その相手には起業家の孫泰蔵氏らもいて、徐々に支援の輪が広がる。2017年には孫正義育英財団の異才支援プロジェクトから、片山晴菜さんと日原翔さんが日本人初の合格を果たした。ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が設立した柳井正財団の海外奨学金プログラム奨学生にも、片山さんは選ばれた。今では8人の日本人が在籍しているそうだ。

教育を変えたいという思い

「広告費もゼロ。とにかくコストをかけない」とミネルバ大学の特徴を説明する山本氏

「広告費もゼロ。とにかくコストをかけない」とミネルバ大学の特徴を説明する山本氏

「優れた経営者は危機感が強い。時代が求めているという理解と支持を受けられた」と、山本氏は振り返る。分からず屋の上司に提案をはねつけられてしまうケースは珍しくないが、根っこの発想に新しさや意義があれば、理解者を見つけられる可能性はある。「当時は誰も知らない大学だった」というミネルバ大にも、耳を傾けてくれるリーダーは存在した。売り込む商品・サービスの魅力や価値を、自分が心から信じていれば、説得の言葉は自然と熱を帯びるだろう。

山本氏の場合、ケンブリッジ大学に留学したときの驚きが大きかった。カレッジで教員と学生3、4人程度の少人数で突っ込んで論じ合うチュータリングに、学びの精髄を感じた。日本ではケンブリッジ大学という全体名称で語られがちだが、実際には各カレッジが学びの主な場だ。自分が体験したような「濃密で深い教育を、日本で再現できないものか」と考え続けていたところに、ミネルバ大が出現した。つまり、ミネルバ大が登場したから、後追いで飛びついたのではない。教育を変えたいという思いが先にあった。

「日本は対象外」という大学側の冷ややかな態度にもめげず、日本連絡事務所代表の立場を認めてもらえたのは、ブームに乗っかるマーケッターではなかったからだろう。つまり、強い「自分軸」があるかないか次第で、相手からの見え具合も変わってくる。ミネルバ大の場合、山本氏のようなボランティア的賛同・支援者を、早い段階から呼び込めたことが異例なスピードでの成功につながったとみえる。熱量の高い仲間を巻き込むことはビジネスシーンでも重要とされる。

「81の思考習慣」をたたき込まれる

山本氏はケンブリッジで経営管理学修士(MBA)を得ている。一般的にビジネススクールでは過去の事例を参考にしたケースメソッドが多く用いられる。検討素材となる実例は裁判の判例のようなものだ。授業では状況を再現しつつ、望ましい経営判断を議論する。ただ、過去の実例だけに、関連情報が十分にあり、情勢も割と見極めやすい。現時点から振り返る格好で、合理的な「正解」を導きやすい、おさらい的なところもある。

新着記事

Follow Us
日経転職版日経ビジネススクールOFFICE PASSexcedoNIKKEI SEEKS日経TEST

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック