息づく海軍の伝統 攻玉社、精鋭主義で現役生磨く
攻玉社中学・高校の積田孝一校長に聞く
東大入試対策では、東大の博士や修士経験者を迎え、実体験をまじえた話を聞けるような授業を組む。教員陣の若返りが進んできたことも、学びの後押しに効果を上げているという。最後の6年生は演習主体の授業となり、必要単位数を超えて授業を受けることも認めている。積田氏は「ありきたりの受験対策を超えた、積極的な学びが結果にもつながっている」と話す。
自分で考える人材育成 スマホは禁止
すべての授業の前に行う「黙想」も特徴の一つだ。授業開始の3分前に予鈴が鳴ると、校庭で遊んでいた生徒も教室に戻り、合図に従って黙想に入る。目を閉じて精神を整える黙想は、柔道や剣道などの稽古の前後に行うのが一般的だが、積田氏は「気持ちを切り替え、授業に集中する効果がある」と語る。ちなみに校内では、スマートフォンや携帯電話の使用は禁止だ。積田氏は「簡単に検索して、分かったような気になってほしくない。プログラミングが教科に組み込まれるようになる時代だからこそ、自分で論理的に考える力が問われる」。
クラシック音楽、歌舞伎、演劇などを鑑賞する行事を定期的に開き、小笠原流宗家の礼法指導も受けている。キャリアガイダンスや国際交流イベントも開催し、教室に閉じこもらない学びをプロデュースする。積田氏は「芸術も礼儀も、本当の教養人には欠かせない」と強調する。部・クラブ活動も盛んだ。ガンダム研究部や数学研究愛好会、レゴ部といった珍しい名前もある。生徒5人が集まり、顧問を立てれば、新設を申請できるルールで、「新たな部やクラブが誕生しやすい環境」(積田氏)という。
大海原にこぎ出す海の男の系譜なのか、同校出身者にはパイオニアと評される人物も多い。たとえば、国立西洋美術館の礎となった「松方コレクション」で有名な実業家、松方幸次郎(川崎造船所初代社長)、映画『ゴジラ』シリーズの第1作を撮った本多猪四郎監督も卒業生。日本人で初めて宇宙飛行を経験した元TBSのジャーナリスト、秋山豊寛氏もOBだ。
少子化の進展などで、私立学校の航路は波穏やかとばかりはいえない。そんななか、同校は授業などで大学と協力する「高大連携」や国際ネットワークの強化を進めるべく構想を練る。「学歴だけで生きていける世の中ではなくなってきた今、『大学の先』まで見据えた中高一貫校が求められている」と積田氏。156年の歴史を持つ「攻玉丸」は帆をいっぱいに張って生徒を新しい海へ導こうとしているようだ。