令和の「母校」広大付属 初の女性校長が導く新時代
広島大学付属中学・高校の鈴木由美子校長に聞く
進学校に多い、難関大学向け「特進コース」は広大付属にはない。志望に沿って文系と理系に分けないのも進学校では珍しいやり方だ。「全人教育が前提。むしろ今は文理融合に向かう流れが出ている」(鈴木氏)。一種のブームになりつつある、生徒が能動的に学べる授業形式の「アクティブラーニング」も、「ずっと前から取り入れてきた」(鈴木氏)といい、その取り組みは時代を先取りしていたとも映る。
「特進」より人づくりの教育
鈴木氏は「勉強一筋ではない『人づくり』に取り組めるのは、広大付属のよさ」とみる。私立の中高一貫校では、高2までにすべてのカリキュラムを終え、高3は受験対策に充てるのが当たり前だ。ただ、広大付属では受験を意識したペースアップはしていない。習熟度別の授業もない。「言われて学ぶ人には向かないかもしれないが、大半の生徒は自分でめりはりをつけて効率よく学んでいる」という。
自主性に任せて、これだけの合格実績が出せる背景として、鈴木氏は「教え方の研究には、高師の伝統を持つ広大ならではの強みがある」と明かす。教員が学会で研究成果を発表することもあり、授業のメソッドは磨かれ続け、最新の教育手法を取り入れる助けにもなっているようだ。5万冊を超える蔵書を持つ図書館も広大付属らしいところ。この蔵書の数は全国の高校の平均の2倍近いという。
03年から文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定も受けている。高2から課題研究科目を設定して全員が履修し、なかでも1クラスを特に科学探究を深掘りするコースとして設定。広大との連携を生かすほか、海外の理数重点校との協働研究も進めている。国際数学オリンピックでは2年連続のメダル獲得者が生徒から出た。日本の宇宙開発の草分け的存在の宇宙工学者、的川泰宣氏も広大付属の卒業生だ。
数ある学校行事のうち、大半の生徒が「一番の思い出」に挙げるのが、体育祭だ。運営の中心となる高3生は、高2のうちから準備を始め、企画をじっくり練り上げていくという。なかでも高1から高3まで6学年が力を合わせるマスゲームは目玉の演目だ。
6月に開かれた19年の体育祭は、プログラムによれば、午前8時50分に開会し、午後3時すぎまで6時間を超えた。「高校女子米騒動」「中高合同5人1組しっぽ取り」など、見慣れない種目名が並び、生徒の創意工夫を感じさせる。チアリーディングや応援合戦なども随所に織り込まれ、会場を盛り上げたという。
各界に多彩な卒業生、100年超す歴史映す
広島への原爆投下により、校舎はほぼ焼失した。倒壊を免れた講堂は広島市の被爆建物に指定され、文化庁の有形文化財にも登録されている。被爆の歴史を踏まえ、「国際平和に関する教育は広大付属の重要な柱」(鈴木氏)。6月には高2の女子生徒が「高校生平和大使」の一員としてバチカンへ飛び立った。ローマ法王フランシスコに一般謁見を果たし、核兵器廃絶を法王に直接、訴えた。