変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

小林氏のもとには、ダイバーシティー推進を迫られる企業などから講演の依頼も寄せられるという。そうした講演の場で小林氏は「人材の多様性、働き方の多様性を本当に実現したいなら一貫性が大切」と説く。

「多くの企業から『イノベーションを起こせる人材を採用したい』と聞きます。一方、採用の現場では、他人と異なる意見を持つ人、枠に収まらない人を避けるようなことが実によく起きているようです。また、成功をほめるより、失敗をとがめる減点主義のような人材評価や人事考課も改めなければ、イノベーションを起こす人材が寄りつかなくなってしまうのではないでしょうか」と小林氏はみる。

働き方の多様性を実現するには、働き方にかかわらず成果をきちんと評価して給料に反映する仕組みが必要だ。新たに休業・休暇などの制度を導入するなら、休んでも不利な扱いを受けない風土をつくらなければ、実効はあがらないだろう。小林氏は「本気で職場を変えたいのなら、仕組み全体を一貫して変えないといけないと思います」と話す。

変化を求めるなら、結果にも責任

小林氏は霞が関でのこんなエピソードを紹介する。国会では議員が繰り出す質問に大臣が答える。その答弁書類をつくるのが霞が関の中央省庁の官僚だ。質問が前夜に届き、朝までかかって答弁書を仕上げるようなケースも多く、国会会期中は長時間の残業を強いられてきた。「ところがあるとき、40代の女性職員が『質問は3日前までに出してほしい』と声をあげたのです。本人は『左遷も覚悟』だったそうですが、意外に多くの議員が理解を示し、協力してくれたそうです」(小林氏)

前例や規則を重んじる官僚の世界での変化……。小林氏は「この話を聞くと『会社の制度や慣行は変えられない』『自分の会社だけは無理』と思い込んで、あきらめる必要はないと思えてきませんか。まず、できる範囲で行動を起こしてみればいいんです」と話す。

多様な働き方をめざすうえで、小林氏は「まず現在の仕組みをつくり、維持してきた立場の人の『心の声』を聞いてみてほしい」と話す。一方的に主張して対立するより、相手の言い分や立場を踏まえて対話を重ねる。そうした態度が多様性を受け入れる素地となり、納得できる解決策を見いだしやすくなるからだ。

さらに小林氏は「何かを変えたり、新しいことを始めたりする場合、その後の行動が決定的に重要になります」と強調する。たとえば、特例で時短勤務が認められたとしたら、「集中して効率的に働き、以前と遜色ないか、むしろ上回るくらいの成果を出す気持ちで取り組むべきです。やってみて評判が悪ければ、『やはりダメだった』となり、ほかの人の道まで閉ざしてしまいます」(小林氏)。

変化を求めるなら、結果を出す覚悟も必要というわけだ。小林氏は「たとえ小さくとも、変革をめざす人は、誰もが幸せになる形をめざし、結果に責任を持つ姿勢を保つのが大事です。働き方改革に追い風が吹いている今がチャンスです」とエールを送る。

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小林りん
 学校法人ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン代表理事。都内の高校からカナダのUWCに編入。1998年に東京大学経済学部を卒業した後、国際協力銀行などを経て2005年にスタンフォード大学大学院で国際教育政策学の修士課程を修了した。国連児童基金(ユニセフ)のプログラムオフィサーとしてフィリピンでストリートチルドレンの教育問題にかかわり、14年に現在の学校の前身であるインターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)を設立。UWCの加盟承認を受け、17年8月に現在の校名になった。

(ライター 渡部典子)

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