笑いより好奇心 カリスマ講師が「伝わる説明」を指南
『感動する説明「すぐできる」型』著者 犬塚壮志氏に聞く

犬塚壮志氏
ところで、犬塚氏はもともと話をすることが得意ではなかったそうだ。予備校講師としての駆け出し時代、同期と比べて話術やパフォーマンスで劣っているというコンプレックスを抱えていた。何とかしようとお笑い番組のDVDを研究したり、ギャグやジョークを教室で披露したり……。しかし空回りが続き、先輩講師から「わざとらしくウケとか狙わなくていいから」と叱咤(しった)されたこともあるという。教壇に立ち始めてから2年目には生徒のアンケートで「つまらなかった」「意味がわからない」といった回答が多く寄せられた。中には「時間を返してほしい」という厳しいコメントすらあったという。
感動を呼ぶための8の型をマスター
プライドを捨てて人気講師の授業を見学させてもらううちに、犬塚氏は「感動を呼ぶ説明には型がある」ことに気づいた。その型を自分なりに分類し、練習して授業でも実践を重ねていくと、生徒の表情が変わってくるのを実感する。本人の担当する化学の授業は「面白い」「わかりやすい」と評判になり、満員御礼が続くようになった。さらに講師を始めて9年目には、季節講習会での受講者数(化学)が日本一になった。
「8つのうち、話すことに自信を持てないビジネスパーソンが第1ステップとして習得しやすいワザは何か」を尋ねてみたところ、犬塚氏は「カットダウン」と「ニュース」の2つを挙げた。
カットダウン
現代は情報にあふれている。「情報を絞らずに、あれもこれも伝えてしまう」という姿勢では、せっかくの説明も価値が上がらない。聴き手に自分の処理能力以上の情報が流れ込むので、大きなストレスになる。そこで、要点だけを伝えたり簡潔な文にまとめて話をすると理解されやすい。そのときには聴き手の注意を喚起するために、わかりやすいフレーズを冒頭にくっつけると良い。「これだけを押さえれば良いんですよ」とか「これをひとことで説明すると……」という語りかけが有効だ。
ポイントは、「何を話すか」より「何を話さないか」を決めることだ。著者は予備校講師を始めたころ「できるだけたくさんの情報を話してあげることで、受験生は喜ぶ」と考えていた。ところが、あるとき"伝説の講師"と呼ばれた先輩の言葉から「話さないことを決める」という姿勢を学んだ。情報量をそぎ落として授業を構成してみたところ、生徒の反応が格段に良くなったという。
カットダウンには「抜粋」「要約」「抽象化」の3パターンがある。どれを選ぶにしても、気をつけたいのは「カットダウンした正当な理由を、必ずセットにして話をする」(犬塚氏)ことだ。聴き手に「この人、出し惜しみしているな」と思わせないことが肝心となる。「今日は時間が限られているので、みなさんに伝えたいことを1個に絞ってきました」という具合に前振りをすると良い。
もう一つ重要なことは、「聴き手のプロファイリング」をきちんと行うことだ。聴き手が何に関心を持っているのか、どの程度そのテーマに詳しいのか、話を聞くことでどんな効能を得ようと思っているか……などを知ろう。
営業で得意先と話をする場合なら、事前に相手のことをリサーチする。社内での会議なら、前もって参加者と少し雑談をすることも有効だ。セミナーのような形式でレクチャーするケースなら、講話の冒頭にアンケートや簡単な問いかけをすることもオススメだ。
ニュース
人間は、新しいものが好きだ。ニュースを入れることで関心の度合いがぐっと高まる。話したいネタが聴き手にとってなじみの薄い分野だとしても、ニュースと関連させることで「自分の関心ゾーン」にあるテーマとして受け取ってもらえるだろう。ただし、ニュースを活用する際には注意する点もある。まず、そのニュースを聞く必然性があることを、聴き手に理解させる。さらに、関連性も重要だ。メインテーマと関係ないニュースは、かえって話の流れを分断してしまう。