「学ぶ文化」なき会社に未来なし 松塾に込めた思い
カルビー元会長 松本晃氏

松本晃氏は、カルビーの社員に「学ぶ楽しさを伝えたかった」と話す
プロ経営者の松本晃氏は、カルビーの会長兼最高経営責任者(CEO)時代、社員向けに「松塾」と呼ぶ勉強会を開いていました。経営者が幹部を後継者に育てようと勉強会を開くケースはありますが、松塾の狙いはそうではなく、社内の「学ぶ文化」の醸成だったそうです。ビジネスを数字と結果で評価する主義の松本氏が、目には見えず効果も測れない文化に目配りしたのはなぜでしょう。その心を聞きました。
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カリスマ経営者が学ばない社員をつくる
松塾を始めた経緯は、僕がカルビーに入ると決めたときに遡ります。僕を誘ってくれたのは、カルビー創業者の三男で中興の祖と言われた松尾雅彦氏です。雅彦氏は長男の聰氏から経営をバトンタッチされ、13年間社長を務めました。その後、会長になり、僕に声をかけてくれたときは取締役相談役でした。
雅彦氏と僕はとても仲が良かった。会長就任を引き受けたとき、僕が松尾家の3兄弟に役員を退いてほしいとお願いしたことは、もうお話ししました(記事は「『出世して取締役』の勘違い おかしな日本の企業統治」)。雅彦氏にはもう一つ、こんなことも言ったんです。
「カルビーは立派な会社だけど、あなたのようなカリスマ経営者が長くトップを務めてきたため、社員がまったく育っていない。社員は全然勉強していない。あなたの貢献は大きかったが、社員の育成は足りなかった。外から人材を取ってくるばかりでなく、下から育てていかないと会社は長く続きません。勉強する文化、学ぶ文化をつくらないとだめですよ」
そういう流れで「一緒に学ぶ文化をつくりましょう」と持ち掛けたのです。雅彦氏も快諾してくれ、松塾がスタートしました。松塾の松は、松尾と松本の松です。
会長になってすぐに第1回を開き、以後も月に1回開くことにしました。開けない月もあったので、実際は年に10回ぐらいだったでしょうか。東京のほか、帯広、仙台、宇都宮、名古屋など、カルビーの事業所や工場がある場所で順番に開催し、必ず雅彦氏と僕が2人で出掛けて行きました。