東大発の特許を後押し 弁理士の女性副社長が奮闘
東大TLO副社長 本田圭子氏(上)
TLOの仕事は「営業力」勝負
博士号も取得し、弁理士の資格も持つと聞くと、非の打ち所のないキャリアを思い浮かべがちだ。しかし、本田氏自身は「挫折も迷走も経験しながらここまで来た」と振り返る。特にポスドク時代は、研究をおもしろいと感じながらも、「キャリアの先が見えないことに悩んでいた」という。「どの方向を向いて進んでいけばいいのかわからず、一番迷走していたのもその頃」だという。
模索を続けるうちに、特許事務所で知財という分野を知り、道を切り開けたことが、キャリア構築の上では大きかった。「東大TLOで特許に関する業務を担っていますというと、出願手続きを代行するだけのイメージを持たれるかもしれませんが、より重要なのはその後です」と本田氏は強調する。
特許を出願するには、ある程度の費用がかかる。大学としてはその投資を回収すべく活動しなくてはならない。
「とにかく興味を持ってくれそうな企業をあたり、一緒にパートナーシップを組んで開発を担ってもらい、そのライセンス契約を結ぶまでが大変」。この流れを一貫して担当する社員を、東大TLOでは「ライセンスアソシエイト」と呼んでいる。「どのような能力が必要ですか?」とよく聞かれるそうだが、その際、本田氏は迷わず「営業力」と答えている。
アカデミズムの成果を産業界に売り込むには、粘り強い営業が必要だ。実は、アソシエイトの半数近くは文系で、文学部や経営学部出身者など様々だという。
先行発明との違いが肝心
「私自身は特許事務所にいる間、専門に研究していたバイオテクノロジーの分野だけではなく、機械やソフトウエア、半導体の技術などに関する特許案件にも多く触れました。どの分野でも、問われることは同じ。『この発明は先行発明と何が違うのですか?』という点です」
特許を申請する上で重要なのは、すでに何が明らかになっていて、どこが先行技術と違うのか、を明らかにする分析力だともいう。「技術を理解することはもちろん必要ですけれども、技術そのものを深く知らなくても、こういった分析力が身についていれば、すべての技術に精通していなくても対応はできます」と語る。
(ライター 曲沼美恵)
後編では、難関の弁理士試験突破や、知財プロフェッショナルへの転身、働きながらの子育てなどについて語ってもらう。
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