倒産に意外な前兆 信用調査のプロが明かす察知のコツ
『倒産の前兆』 丸山昌吾氏
外部から眺めていても分かる情報の一つに、人の動きがある。有力な幹部社員が辞めてしまうのは、勤め先の将来に希望を持ちにくくなったからというケースが少なくない。経営陣の知恵袋や営業の稼ぎ頭、技術のキーパーソンなどが抜けてしまうと競争力そのものも陰る。辞めた事情を残った社員から聞ければ、内情をつかむ手がかりになる。「人の出入りが多い企業は注意を要する」(丸山氏)
とりわけ平時から名前と顔を見知っておきたいのは、財務や経理のリーダーたちだ。自分が勤める会社の財務実態を最も正確に知り得る立場だけに、悩みも深い。ワンマン社長が思いつきで始めた事業が金食い虫になり経営が傾きかけているといった場合に、「どうにもならない」と見切って社を離れることもある。彼らの動きはそのままネガティブ情報となり得る。税理士や監査法人の変更も懸念材料だ。
企業は経営者個人の持ち物ではないが、トップの個性は時に会社の屋台骨を揺さぶる。「ワンマン型経営者の場合は、周りがブレーキをかけきれず事態を悪化させてしまうことがしばしばある」(丸山氏)。経営者に会えなくても、ホームページの社長コメントや関係者からの評判などで、大まかな人柄はキャッチできる。各種ハラスメントやコンプライアンスのリスクも無視できない。社内ガバナンスの水準には日ごろから目配りしておきたい。
散らかった机は要注意

「実際に足を運んで、企業の経営者に会うことが重要」と話す丸山昌吾氏
その企業を取り巻く外部環境の変化が採算性を悪化させることも珍しくない。強力なライバルの出現は、ダイレクトに収益を落ち込ませかねない。低価格のアパレルやステーキの出現は、既存企業からうまみを奪った。ネット通販の普及は百貨店業界へダメージを与え続けている。「風が吹けば桶(おけ)屋がもうかる式に、新たなビジネスや商品の登場がどんな波及効果を生むかを連想するトレーニングを積むのが先読みに効果的」と丸山氏は頭の体操を提案する。
財務データから読み取れる「兆し」は少なくない。仕入れ先の変更、商品量の急増・急減、取引先の集中、在庫管理の甘さなどは経営上のトラブルが潜むことをにおわせる。連続する赤字は最も分かりやすい目印だが、売掛金の回収不調、不動産の売却、税金の滞納、担保の設定といった出来事は赤字計上の前段階で業績悪化を見抜くヒントになってくれる。
企業の工場や営業所に足を運ぶと、数値以外に得られる情報が豊富だ。たとえば、机の上が散らかっている、掃除ができていないなどは労働モチベーションを映しやすい。設備の老朽化や機材の不足は、設備投資の遅れを示す。照明を落としたり、観葉植物が減ったりというような変化にもコストカットのしわ寄せが及びやすい。「訪問先ではあちこちに目を走らせれば、生の情報が手に入る」と、丸山氏はぬかりない観察を促す。
取引先の経営破綻を予測できないと、代金回収をしくじったり、部品・原材料調達が滞ったりして勤め先のビジネスに損害を与えかねない。自分のキャリアを守ることにもつながる。勤め先の経営悪化に早く気づくことができれば、早めの転職で「沈む船」から逃れるリスクヘッジが可能になる。自社の課題を発見して、深刻化する前に改善を提案することもできるだろう。「よその兆しが他山の石になる」と、丸山氏は勤め先の「セルフチェック」を勧める。