倒産に意外な前兆 信用調査のプロが明かす察知のコツ
『倒産の前兆』 丸山昌吾氏
SNSへの投稿にも目配りを
法的な規制や商慣習の変化などをきっかけに、経営が傾くケースもあり得る。「取引先が経営破綻した結果、有力な収入源を失い、連鎖的に追い込まれる場合もある」(丸山氏)。逆に、関連会社・子会社の倒産が親会社にダメージを与えることもある。投資の失敗や保有資産の目減りも経営不安につながる。ニュースの先を予測して、影響が及ばないかどうかを見極める先読みは、突然の破綻通知を避けるうえで欠かせないルーティンだ。
一見、テレビCMやパーティーで景気のよさを印象づけているからといって、本当にもうかっているとは限らない。むしろ、「苦しい状況を見せまいと、派手なイベントを打つところもある」(丸山氏)。見かけの華やかさにだまされてしまわず、身の丈に合った広告費なのか、期待が持てる新規事業なのかを、冷静にジャッジする必要がある。
「近ごろ増える傾向にあるのは、後継者難を主因とする廃業」と、丸山氏は倒産事情の変化を語る。業績は安定しているのに、経営トップの高齢化を背景に事業の継続が難しくなる企業が増えているという。つまり、後継者のあてがない企業は破綻リスクを抱えていることになる。「業績が上向かず、経営再建をあきらめてしまう高齢経営者も相次いでいる」。経営トップの家族状況もチェックポイントに加えておいたほうがよさそうだ。
コンプライアンスを求めるムードが強まり、工程の偽装や不見識な行為など幅広い面で消費者、世論の批判を浴びるようになっている。内部告発が難しいような、上意下達式の社内風土は、それ自体がリスクと映る。元社員のSNS(交流サイト)書き込みや、ネット上での風評からも社風を感じ取る情報は得られる。人手不足の昨今、こうした風評のある企業は、優れた人材を呼び込みにくくなっている。「ヒト」が最大の競争力となるなか、人手不足や人材難は経営リスクに直結しがちだ。
「デジタル化や経営スピードアップも競争環境を様変わりさせている」と、丸山氏は指摘する。ベンチャー企業が得意とする小回り経営や連続的商品投入についていけないと、老舗企業でも立ちゆかなくなりつつある。古風な経営手法の企業は、デジタル化の波にのまれて、退場を強いられるケースがあるようだ。ペーパーレス化の進み具合、連絡ツールの効率化などをものさしに、取引先企業の取り組みを推し量る手もありそうだ。
たくさんのチェック項目を教わったが、丸山氏が最も効果的と推すのは、「実際に足を運んで、企業の経営者に会うこと」だ。経営者に会えなくても、先方の社内で過ごせば、「たくさんの気づきがもらえる」。まずは自分が勤める職場で「予習」してみるのも悪くないだろう。
帝国データバンク東京支社情報部情報取材編集課課長 警察官勤務を経て、1993年同社入社。横浜支店調査部に配属となり、約11年間にわたってさまざまな業界の企業に対する信用調査を実施。2006年から横浜支店情報部に転じ、経営破綻した企業を数多く取材。13年から現職。