武蔵、息づく学問の伝統 新校長が描く「進化」の道
武蔵高校中学(上) 教育ジャーナリスト・おおたとしまさ

2019年4月に就任した武蔵高等学校中学校の杉山剛士校長
新校舎が完成、新校長迎える
19年3月、約2年をかけた校舎の改築工事が終わった。古い理科棟は解体され、真新しい理科・特別教室棟が誕生した。エントランスは木のぬくもりを生かしたモダンなデザインに刷新された。
装いを新たにした武蔵にやって来たのが杉山剛士新校長である。19年4月、長髪にひげがトレードマークの梶取弘昌前校長からバトンを受け継いだ。浦高で校長を務めた杉山さんは武蔵の出身。同期には東大総長の五神真さんがいる。
武蔵中に入ったのは1970年。高校から1浪して東大文科3類へ進学した。大学院では教育社会学を学び、卒業後、あえて公立高校の教員を選ぶ。当時の武蔵で「狭い世界のリベラリズム」を感じたからだった。それがなぜ今回、母校に戻る決断に至ったのか。
教育実習で感じた不学
「武蔵ではバレー部でキャプテンを務めました。弱かったですけどね。文化祭では当時流行のフォークバンドなんかをやりましたね。ジャーナリストにあこがれ、大学では社会学を学ぼうと考えていました」(杉山さん)
武蔵を卒業したのは76年。ちょうどベトナム戦争が終わり、ロッキード事件が明るみに出たころである。「ペンの力」に期待が集まっていた。
「武蔵での6年間は充実していました。でも一方で、『ほんとにこれでいいのかな?』という疑問もあったんです。武蔵に限らず、私立の中高一貫校のなかで、恵まれた人たちがそのなかだけでのリベラリズムを享受しているような違和感がありました」