あえて英語圏でない国へ 「一人旅」させる武蔵
武蔵高校中学(中) 教育ジャーナリスト・おおたとしまさ
受験に不要な第2外国語を学ぶ学校文化
研修の仕組みはこうだ。
武蔵では、中学3年から第二外国語が必修になる。徹底した教養主義を掲げた旧制7年制高校に由来する伝統の一つである。旧制7年制高校は、現在の中高一貫校と大学の前期教養課程を合わせたような戦前の教育システムだ。武蔵は日本で初めての私立7年制高校として創設された歴史をもつ。

国外研修を記録した年報
ドイツ語、フランス語、中国語、韓国朝鮮語から学びたいものを選ぶ。希望すれば、さらに高校で中級・上級クラスを履修できる。上級クラスで特に健闘が認められた生徒には、高2から高3に進級する春に、提携校での研修が認められる。単身でドイツまたはオーストリア、フランス、中国、韓国,イギリスに行き、現地の学校で学ぶのだ。
校外学習の機会が多い武蔵でも、国外研修は究極のプログラムだ。すでに30年以上の歴史がある。毎週火曜日の放課後遅くまで、大学受験に役立つわけでもない授業を受けて頑張っている生徒たちに何か褒美を出せないかと考えた当時の大坪秀二校長のアイデアで生まれた。
第二外国語まで頑張る意欲のある生徒は、得てしてその他の教科の成績もいい。普通にやっていれば、難関大学合格も容易(たやす)い。しかし、世の中の高3生が受験勉強に本腰を入れ始めるこの時期に、学年トップクラスの精鋭たちを2カ月間も海外に出すわけである。普通の進学校の常識ではちょっと考えられない。でもそれが武蔵らしさである。
海外での「自調自考」を学校が資金援助
19年度からは「第二外国語」「国外研修」を含むグローバル教育を量と質の両面から充実させる構えだ。担当の酒井良介教諭はこう話す。
「まず、改めて『なんで第二外国語をやるんだっけ?』という問いにきちんと答える必要があると感じました。結論を端的にいうならば『課せられていない学びは面白い』ということです。そして『英語だけでいいの?』という視点もぜひもってほしいのです」