5年がかりで弁理士に 知財発掘に挑む双子ママの奮闘
東大TLO副社長 本田圭子氏(下)
子育てのアドバイス「使える制度はフル活用を」
技術紹介のために企業を訪問すると、「こんなデータはないですか?」と聞かれるポイントがある。研究者にヒアリングする際は、それを踏まえたうえで、企業目線の質問をするよう心がけている。
「例えば、シャーレの中だけの実験データだと企業には興味を持ってもらえませんが、動物実験のデータが加わることで興味を持ってもらえることがあります。私たちが『動物のデータはありませんか?』と聞き続けることにより、研究者の方々も、今では当たり前のように動物実験のデータを取ってくださるようになりました」
論文投稿した後でも特許出願はできるという点は、研究者があまり知らないことの一つだという。「論文の場合、投稿するとレビューアーとのやりとりがあり、公になるまで3カ月から長いと1年ぐらいかかることもあります。それまでの間であれば特許出願することができます。そういうことをご存じない研究者もいますので、それを普及させていくのも私たちの使命の一つかなと思っています」
当初は研究者自身、「これで一区切り」と思っていた研究が、企業が興味を持ち始めたことで発展していくこともあるという。仕事をしていて難しいと感じるのは、「大学の研究はとにかく早すぎる」ことだ。
「産業界の思考がアカデミズムに追いつくには5年ぐらいかかります。その間、こんなテーマはどうですかと企業に営業をかけても、ライセンス契約に結びつかないことも。その間が一番苦しいですし、逆に言うと、粘って営業をかけ、5年ぐらいしてようやく産業界からの引き合いがあったりすると、やりがいを感じます」
私生活では双子の母親だ。後輩にどんなアドバイスを送っているのかと尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「私自身は近くに夫の両親が住んでいたので、子育てをする環境的には比較的、恵まれていました。そんな環境で子育てできる人たちばかりではありませんから、後輩たちには『使える制度はフル活用したらいい』とアドバイスしています」
「東大TLOはそもそもフレックスタイム制ですし、産休・育休は2年まで取れます。小学校に上がるまでは時短勤務も選択できます。私自身も復職して約1年間は時短勤務しました。その頃、子供を迎えにいかなくてはならない時間になると、後輩が『ママダッシュの時間ですよ』と声をかけてくれて、とても助かりました。制度を使うのに気兼ねする必要はないと思います」
取締役に抜擢されたのは、育児休業が明けてすぐのこと。仕事か私生活かの二者択一ではなく、両方を充実させようと選択してきた結果、現在のキャリアがある。
(ライター 曲沼美恵)
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