社長も部長もない 「対等な議論こそ力」
TDK 石黒成直社長(上)

TDKの石黒成直社長
2020年に85周年を迎える電子部品大手のTDKは、東京工業大学で開発された磁性材料を事業化するために設立された大学発ベンチャー企業の先駆けだ。あらゆる電子機器に欠かせない祖業の磁性材料をはじめ、さまざまな電子部品、ハードディスク駆動装置(HDD)用の磁気ヘッドや各種センサーなど幅広い製品を手掛け、特にスマートフォンやドローン(小型無人機)向けの電池では世界トップシェアを誇る。就任して3年を迎える石黒成直社長(61)は、事業拡大の原動力としてTDKの「ベンチャーマインド」を挙げる。
――経営トップとして、特に意識していることは何ですか。
「社長になって特に気にかけていることは『社員との距離感』です。リーダーには先頭に立って皆を引っ張るタイプがいれば、後ろからサポートするタイプもいます。私は社員との距離を自然体で縮めていくことを心掛けています」
「先日買収した米国スタートアップ企業のトップとは、東京・新橋の居酒屋でお互いに腹を割って話し合いました。会社同士の関係も結局は人と人との付き合いです。組織の代表としてメッセージを社内外に発信することが大切だと感じます」
――大切にしているTDK独自の企業文化はありますか。
「TDKには昔から『機能対等』という言葉があります。例えば、『社長だから上、部長だから下』といった考えはありません。それぞれの部門が持つ機能・役割に上下関係はなく、対等だから互いに尊重し合うという考え方です。会議でも頭ごなしに叱ったり、逆に臆したりせず、自分の意見を積極的に発言します」
社長が自ら出向く自由な社風
「私の入社間もない三十数年前も、当時の社長や会長が従業員のフロアにふらりと下りてきて、担当者と席を並べて話していたのを覚えています。社長だからといって従業員を社長室に呼びつけたりせず、自分から出向く。そんな自由な社風が好きですし、今後も大事にしていきたいです」
「歴代の社長はいずれも個性的でした。それぞれ経営手法も考え方も異なります。皆一人として自らと同じようなタイプの人間に社長の職を引き継いでいません」
「ただ共通していえるのは、いずれもベンチャー精神を持っていることです。新しいことに挑戦し、世の中に変化を起こしてきました。カセットテープにしろHDD用磁気ヘッドにせよ、人々の生活に役立つ製品を開発してきました。これは様々な産業を立ち上げようとひた向きに挑戦を続けた、初代社長の斎藤憲三から脈々と受け継がれているDNAです」