「日本カレーは文化」 海外へ味も働き方もココイチ流
壱番屋 葛原守社長(上)
「女性が増えると男性客も増えます。1号店の来店客数は月間3000人ほどでしたが、2号店は月間1万人を超えました。現地のテレビにも取り上げられて、2、3、4、5号店と右肩上がりに売り上げが伸びて、1号店もそれに引っ張られて客数が増えました」
――現地の従業員をどのように引っ張ったのですか。
「1号店をオープンしたとき、日本人は私1人だけ。東京の店舗でアルバイトをしていた日本語のできる中国人男性に声をかけて、通訳として一緒に来てもらったくらいです。新聞に求人広告を出すと100人ほどの応募があり、面接して地方出身者を中心に20~30人採用しました」
ココイチスタイルを貫く
「私は中国でも日本のココイチのスタイルで営業したいと考えました。1人の従業員が調理も接客もレジも掃除も、何役もやるというものです。しかし、周囲からは反対されました。中国は役割分担がはっきりしているというのです。でも、私は『中国は13億人もいるのだから、いろいろな人がいるはずだ』と自分の考えを押し通しました」

「店では率先して、洗い物も床やトイレの掃除もやりました」
「店では私が率先して、洗い物も床やトイレの掃除もやりました。中国人スタッフからは『やめてください』と言われましたが、『日本ではこれは上司が率先してやる仕事だから、気にしないでいい』と説明しました。こうしてようやく『日本の店では当たり前』なことを分かってもらえて、ゴミが落ちていたら拾う、誰かが困っていたらフォローする、といった習慣をつくることができました」
――現地でリーダーシップを発揮するために心がけたことはありますか。
「仲良くなろうと考えて、いろいろと取り組みました。やはり人間関係が一番大事です。『中国人はこうだ』などと固定観念を持たずに、従業員を自分の兄弟のように思って、親身になって接すれば気持ちは伝わります」
「昼休みには有料ですが弁当を用意しました。6元(当時80円強)で、ごはんとおかず2品、季節の果物1個をつけました。当時のアルバイトの時給は6元です。私も彼らと一緒に弁当を食べました」
まずは相手を好きになれ
「従業員一人ひとりの誕生日をメモ帳に書き留めることもしました。その日が近くなると事務所に呼んで『おめでとう』と、ちょっとしたプレゼントを渡したりしました。みんなすごく喜んでくれましたね。そういう積み重ねが人間関係につながります」
――まず人間関係を築くことを重視したのですね。
「今も社員には『まず相手を好きにならないとダメだ』とよく言っています。好きな人なら、血液型が何かから、出身地はどこか、好きな食べものは何かと、自然と気になります。現場のリーダーは一人ひとりの従業員に対してその気持ちがないと、相手もそう思ってくれません」
「私と一緒に日本から連れていった中国人男性は当時まだ大学生でしたが、現在は中国現地法人の副社長です。ほかの従業員たちも、今では結婚して子供もいて、マンションや乗用車を買っています。以前はアパートに3、4人が一部屋で住んでいました。いまそういうのを見ると、ものすごくうれしくなります。誇りにも思います」
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1967年生まれ。広島県出身。地元の調理師学校を卒業後、広島市内のホテルでコックの修業を積む。92年壱番屋入社。店長を経験後、スーパーバイザーを経て2003年に中国進出のため上海に赴任、04年に中国1号店をオープンさせた。06年海外事業部長、13年取締役、18年3月副社長、19年3月から現職。
(笠原昌人)
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