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意図しないメッセージを与えてしまうのは、非言語コミュニケーションで最も避けたい失敗の一つだろう。たとえば、商談の最中に時計を見るのは、「早く切り上げたい」のサインと受け取られがちだ。部下との人事考課面談であれば、「私を嫌っている」という疑念を呼び覚ましかねない。時計に一瞬、目を送っただけでも、相手は察知する。あらかじめ絶対に時計を見ない訓練を重ねておかないと、わずかな気の緩みがミスを招いてしまう。「心がけるだけではだめ。訓練が必要」と、木暮氏が説く理由だ。

見た目は受け取り方が自由なせいで、本人が思いもよらないメッセージを発するリスクをはらむ。「自分の服装やしぐさが誤解リスクを生んでいるという危機感を持つべきだ」と、木暮氏は促す。あらぬ方向に視線を向けるだけでも、各種ハラスメントを引き起こすおそれがある。服装の乱れも、部下の幻滅を招きかねない。身なりにだらしないせいで、「リーダー失格」の烙印(らくいん)を押しつけられるのは、業務面で十分な資質を持つ人にとって、不本意なはずだ。でも、「リスクを自覚していない人がまだ多いのが現状」(木暮氏)という。

転職希望者をサポートするにあたって、必ず会食するという、転職エージェントもいるそうだ。仕事シーンや面接場面では表に出にくい人柄や本音をつかむうえで、食事という非言語コミュニケーションは絶好のチャンスなのだという。表情を保ち、目線をコントロールし、不快感を与えない。こういったいくつものチェックポイントをしっかりクリアできるかどうかは、「職場での振る舞いを見抜く手がかりになる」。

どう見せるかは重要ではない

物言いに比べて、しぐさは軽視されているところがある。個人的な動作はいちいちとがめ立てしない空気が背景にある。でも、印象に残りやすいので、キャラクターイメージと結びつき、「いつも~する人」といった人物像を生みがちだ。職場で独り言、舌打ち、貧乏揺すり、くしゃみなどの癖を持つ人は、いつしかそのしぐさと人物像が同化しやすい。「周囲から見られているという自覚は普段から忘れないように。見た目への気配りが必要なのは、会議や商談の場面だけではない」と、木暮氏は日ごろからの「自分しつけ」をすすめる。

ビジネスシーンでの見え具合と聞くと、説得力を帯びた、堂々たる振る舞いや、ばっちり決まった、スーツの着こなしなどを思い浮かべやすい。しかし、木暮氏がすすめるのは、「相手にとって心地よいかどうか」という判断基準だ。「あくまでも相手目線。どう見せるかではなく、どう見られるかを意識したい」。経営者にコーチする際、ビデオを撮って見せると、大半の経営者は自分の見え具合にびっくりするそうだ。「感じの悪いおじさん」と、慨嘆した人もいる。その気づきを出発点に、どの表情やしぐさが悪印象を生んだのかを確かめて、改善に取り組む。「自分を客観視するには、第三者的な目が欠かせない」(木暮氏)

見た目の磨き上げに批判的な人が言う通り、外見はビジネスの本質ではない。だからこそ、「中身の話に進む前に、見た目を理由に、結果を決められてしまうのは納得しにくいはず。そのリスクは遠ざけてしまいたい」と、木暮氏は「予選落ち」につながる手抜きはもったいないと諭す。今や身だしなみや所作はビジネスパーソンにとって、キャリアを守るリスクヘッジ策としても必須のスキルになってきたようだ。

木暮(きぐれ)桂子
 ビジネスアピアランスコンサルタント。ディグニータ代表。シンガポール航空でフライトアテンダントとしてシンガポールに駐在。グロービスの創業期から現在のグロービス・マネジメント・スクール、グロービス経営大学院の立ち上げに関わる。ディグニータ創業後は経営者や政治家のパーソナルブランディング、イメージアドバイス、非言語コミュニケーションのコンサルティングを提供。著書に『感性がビジネスを支配する』(共著)、『ビジネスという勝負の場は一瞬、しかも服で決まる』がある。

印象はしゃべらなくても操作できる

著者 : 木暮桂子
出版 : サンマーク出版
価格 : 1,540円 (税込み)

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