実験で高速カイゼン進めよ トムケ教授が日本にエール
ハーバードビジネススクール教授 ステファン・トムケ氏(下)
役員の中には、「これはコストの削減にはなっても、それ以上に売り上げが減少してしまう」と反対する人がいました。そこで100店舗を対象に実証実験をすることにしたのです。その結果、開店時間を1時間遅くしても、売り上げはさほど減少せず、コスト削減のメリットのほうが大きいことがわかりました。それで、1時間遅くすることを決定したのです。
このときコールズが使ったのは、マスターカードの傘下にあるアプライド・プレディクティブ・テクノロジーズという会社のテストツールです。このツールは現在、多くの流通企業で活用されています。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。日本ユニシス社外取締役。
佐藤日本のコンビニには毎週20~30もの新商品が並び、毎週、実証実験をやっているようなものだと思うのですが、それでも新商品を導入する際に実証実験をすべきですか。
トムケ 実証実験で大切なのは、何を実証するためにテストをするのかを最初に明確にしておくことです。今、おっしゃったテストでは、「ある特定の場所においた新商品が売れるか売れないか」しかわかりません。
「なぜ売れないか」の示唆が重要
これはサムスンがよく実施しているタイプのテストと同じです。サムスンは新製品を店舗に並べてみて、売れなかったらすぐに売るのをやめてしまいます。これは失敗作だったと結論づけてしまうのです。しかし、そこから何が学べるでしょうか。「売れなかった」という結果だけです。実証実験で最も重要なのは「なぜ売れないのか」について示唆を得ることです。
値段が高すぎたのか。陳列した棚の位置が悪かったのか。テレビ画面のサイズが小さすぎたのか。直接市場に出して売れなかったという結果だけでは、次に売れる商品を開発するためのヒントは何も得られません。
佐藤 トムケ教授は「ビジネスリーダーや経営者の仮説の70~80%は間違っている」と断言されています。なぜ、実証実験を適切に実施することが重要なのでしょうか。
トムケ 先ほども申し上げたとおり、消費者行動を予測することなど不可能だからです。これは紛れもない事実です。では、どうやったら、消費者行動を把握できるのか。
それには2つ方法があるでしょう。1つは従来のような調査をたくさん行う方法です。消費者を対象にアンケートやフォーカスグループインタビューを実施すれば、90%の失敗率を70~80%にできるかもしれません。しかし結果は限定的です。