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「例えば京都大学の大学院時代、論文を書く過程で、論文を厳しく批判した研究仲間の学生がいました。どこかダメなのか具体的な話は一切なし。書いた論文をばさっと机の上に投げ出されたりしましてね」

「留学生だから」という甘えや弱みは絶対に見せない

「正直、かなり侮辱されたとも感じましたが、それ以降は徹底して修正の指示を出しようがない論文を完成させてきました。自分が『留学生だから』という甘えとか弱みは絶対に見せず、次につなげる姿勢で示す。結局、その学生とはすごく仲良くなって、彼の結婚式の司会は私がしましたし、私のマリの実家に1カ月も滞在したこともありました」

――感情ではなく、姿勢で示すということですか。

「京都精華大で教え始めてからも、『この委員会には外国人は入ったことがない』などと言われた経験は正直ありました。そんなときは、論文の時と同じで、自分が一生懸命やっているという姿勢をみせ、信頼関係を作ってきました。けんかですべてを片付けることなんてできないですから」

「学長になってから、議論が紛糾したときには笑いながら打開策を探すといったことを心がけています」

「学長になってから、議論が紛糾したときには笑いながら打開策を探すといったことを心がけています」

「学長になってから、議論が紛糾したときには笑いながら打開策を探すといったことを心がけています。それも、こうした過去の経験から、感情をコントロールするエモーショナル・インテリジェンス(感情知能)は大切だと痛感しているからです」

――尊敬するリーダーは誰ですか。

「みなさんの参考になるかわかりませんが、やはり南アフリカ大統領の故ネルソン・マンデラ氏です。彼はアフリカ全体のヒーローです。特に影響を受けているのは、彼の姿勢です」

マンデラ氏からの影響

「彼は反アパルトヘイト(人種隔離策)運動のなかで、白人とか黒人という区別をせず、『皆、人間だ』と言い続けました。私が大学の多様性の話題の際にマイノリティーを優遇するのではなく、マジョリティーの意識を変えたいと言ったのは、どうやって白人の意識を変えて、黒人を受け入れてもらうかをずっと考えていたマンデラ氏の影響です」

「マンデラ氏が白人の意識を変えられたから、南アフリカはアパルトヘイト政策を廃止できました。もちろん、問題がすべて解決したわけではありませんが、彼のこうした姿勢を私は尊敬しています」

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ウスビ・サコ(Oussouby SACKO)
1966年生まれ、マリ出身。中国・南京の東南大学卒業(建築学)後、91年に来日。京都大学大学院工学研究科建築学専攻修了。工学博士。京都精華大学人文学部長などを経て2018年から同大学長。専門は空間人類学。20年以上京都に住み、日本国籍を取得している。妻は日本人。流ちょうな関西弁を操る。

(藤原仁美)

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