恐れのない職場がトヨタの強み ハーバードが見る組織
ハーバードビジネススクール教授 エイミー・エドモンドソン氏(上)

ハーバードビジネススクールのエイミー・エドモンドソン教授
世界トップクラスの経営大学院、ハーバードビジネススクール。その教材には、日本企業の事例が数多く登場する。取り上げられた企業も、グローバル企業からベンチャー企業、エンターテインメントビジネスまで幅広い。
(中)組織の中の「恐れ」で明暗 ハーバードが見た原発事故 >>
佐藤 最新刊「恐れのない組織:職場に学習力・イノベーション・成長をもたらす心理的安全性の創出(The Fearless Organization: Creating Psychological Safety in the Workplace for Learning, Innovation, and Growth)」は、「心理的安全性」をテーマとした本です。この本を執筆した動機は何ですか。
心理的安全性は学界のトレンド
エドモンドソン 「心理的安全性(Psychological Safety)」という概念が学界の外でもトレンドになりつつあると実感したからです。

エドモンドソン教授の最新刊「The Fearless Organization: Creating Psychological Safety in the Workplace for Learning, Innovation, and Growth」
ここ数年、多くの人がメディアなどで心理的安全性についての記事を書いたり、語ったりしているのを目にしますが、そのきっかけとなったのは、ニューヨーク・タイムズ紙の記事「グーグルは完璧なチームを築く過程で何を学んだか(What Google Learned from Its Quest to Build the Perfect Team)」(2016年2月25日)だと思います。この記事は、グーグルの「プロジェクト・アリストテレス」の調査結果を紹介したものです。
この研究プロジェクトの目的は「結果を出すチーム(effective team)をつくるにはどうしたらいいか」という問いに対する答えを見つけ出すことでした。グーグルの研究者がつきとめたのは、結果を出すチームをつくるには、個々のチームメンバーの経歴やスキルはそれほど重要ではなく、心理的安全性こそが最も重要な要因だということがわかったのです。「プロジェクト・アリストテレス」の報告書には、参考文献として私が書いた論文「チームにおける心理的安全性と学習行動」も紹介されています。(参照ホームページ:https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/introduction/)
私はこの記事を読んで、グーグルが心理的安全性の重要性に気づいてくれたことをうれしく思うと同時に「私は1990年代後半からずっと心理的安全性について研究しているのだから、もっとこの概念について詳しく伝えるべきではないか」と思いました。心理的安全性の研究はグーグルの報告書で完結するわけではありません。ここからさらに私たち学者が研究を広げていかなくてはなりません。そこでこれまでの研究内容を1冊の本にまとめることにしたのです。
佐藤 心理的安全性をどのように定義していますか。
エドモンドソン 私の論文では、「チームメンバーがお互いに『このチームでは対人リスクをとっても大丈夫だ』と信じている状態」と定義しています(Edmondson, Amy. (1999). Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams. Administrative Science Quarterly. 44(2). 350-383.)。