イノベーションは「良き逸脱者」必要 ハーバード教授
ハーバードビジネススクール教授 エイミー・エドモンドソン氏(下)
会社が製品やサービスを顧客に提供するのは一体何のためなのか。その目的は「顧客、社員などステークホルダーを幸せにすること」「よりよい社会をつくるのに貢献すること」などでしょう。では、変化の激しい世界の中で、この目的を達成し続けるにはどうしたらよいのでしょうか。目の前の人間関係にばかり時間や労力を使うことが、会社のビジョンを達成することにつながるでしょうか。そんなことを気にせずに、どんどん新しいアイデアを出していかなければ、会社は成長できないでしょう。
このような現実を理解すれば、心理的安全性を創出することの必要性もおのずと理解できるはずです。
命令ではなく質問すること

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。日本ユニシス社外取締役。
佐藤日々のコミュニケーションでは、どういう点に気をつければいいでしょうか。
エドモンドソン まず上司は部下に、リーダーはメンバーに、命令するのではなく、質問することです。これはメンバー同士でも重要なことです。質問は、心理的安全性を創出するのに役立ちます。上司から意見を求められれば、思っていることを発言しやすくなるからです。
次に、問題を報告されても、怒ったり、感情的になったりせず、建設的に対応することです。私が特に勧めているのは「問題を報告してくれてありがとう。問題を解決するために私にできることはありますか」と聞くこと。リーダーが一緒に解決してくれようとすることがわかれば、チームの心理的安全性はさらに高まります。
大手化学会社、イーストマン・ケミカルのマーク・コスタ最高経営責任者(CEO)は、ハーバードビジネススクールの授業に招かれた際、「CEOとして最も怖いのは、社員も役員も真実を伝えてくれなくなることだ」と語っています。彼は意図的に嘘をつかれることを恐れているのではありません。真実が組織の上まで上がってこないことを恐れているのです。
人は出世すればするほど、保守的になります。中間管理職が自分のチームの中に心理的安全性を創出することに成功し、現場の問題があがってくるようになったとしても、その上の部長が「この件は役員には伝えたくない」と考えれば役員まであがりません。あるいは、部長がその上の役員に自分の部の問題を報告したとしても、役員が「この件はCEOには伝えたくない」と考えれば、CEOにまであがることはないのです。社員が「私の上司は良い報告だけを求めている」と考えている会社は、遅かれ早かれ危機にさらされるでしょう。
佐藤 エドモンドソン教授が著書『チームが機能するとはどういうことか――「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』で提言した「チーミング」(Teaming=結果を出す組織づくり)は日本企業にとってますます重要になりつつあります。部門間、職責間を超えて、生産性の高いチームをつくるにはどうしたらいいのでしょうか。
平時にも非常時のような協力体制を
エドモンドソン リーダーの大切な役割の一つは、達成すべきビジョンを伝え、異なる部門の橋渡しをすることです。部門横断プロジェクトで縦割り組織の弊害を感じたら、まずは次の3つをメンバーに質問してみるといいでしょう。
(1)このプロジェクトで、あなたは何を実現したいか(2)あなたのスキル、強みは何か。それをこのチームでどのように生かせると思うか(3)本プロジェクトの推進において、何を懸念しているか。障壁となっているものは何か――。