絶頂だから「最も難しい問題」 田中角栄がみせた即断
元秘書・小長啓一氏に聞く(下)
「とても早いスピードでした。1965年に田中さんが蔵相だった時、経営危機にひんしていた山一証券に対して日銀特融を実施されたときもそうでした。『無制限、無担保』を前面に打ち出して国が山一証券を支援する姿勢を鮮明にされました。国が明確に支援を打ち出すことで倒産説を封じ込められました。もし決断が少しでも遅れていたら金融恐慌に突入していたかもしれません」
「持てる者」と「持たざる者」の格差が大きくなり始めている
――今、改めて田中角栄さんへの関心が高まっているように思えます。
「世界を見渡すと『持てる者』と『持たざる者』の格差が大きくなり始めている感があります。米国でトランプ氏が大統領に選ばれたのもそうした時代背景と無縁ではないででしょう。米国では一握りの富裕層とそれ以外の低所得者層の差が日増しに大きくなっていて、そうした現状に対する不満がトランプ氏を大統領の座に押し上げたのではないでしょうか」
「田中さんの時代は高度成長の時代でしたが、一連のいわゆる列島改造政策によって地方への工場の進出や雇用拡大が進みました。しかしその後のグローバル時代になるとそれらの工場が海外にもって行かれ、空洞化を招きました。米国ほどではないが格差社会になる可能性がでてきたのです。こういった時代背景が関係しているのかもしれません」

「いったんは『日本列島改造論』の旗を降ろさざるを得なかった。仕方がなかったとは思いますが、田中さんは残念だったと思います」
――田中角栄さんがもう一度、首相になっていたら何をしたでしょうか。
「『日本列島改造論』の続きだと思います。オイルショックや地価高騰などで、田中さんもいったんは『日本列島改造論』の旗を降ろさざるを得なかった。あのときはある意味、仕方がなかったとは思いますが、田中さんは残念だったと思います」
「グローバル化時代になり少子高齢化が進んできた現在、次世代通信規格『5G』を中心とした情報インフラの整備、介護施設や保育施設の充実、国土強靱(きょうじん)化、耐用年数の過ぎたインフラの緊急整備などが加わるでしょうが、均衡ある国土の発展、地方と東京の格差の解消という政治家としての理念を現実のものとしたかったのではないでしょうか。すべての国民が健康で幸せで、家族団欒(だんらん)で皆が幸せに暮らせる国。そんな国づくりの続きをおやりになると思います」
(聞き手は前野雅弥)
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