「野獣」であれ 必要なのは最後に責任をとる覚悟
ピーチ・アビエーション 井上慎一CEO(上)
――リーダーの在り方を考えるようになった原点は何ですか。
「リーダーは人を生かして組織を活性化しながら結果を出す、そして最後に責任をとる覚悟を持つということだと思います。これは父の教えです」
「父は東京水産大学(現東京海洋大学)で教えていて、船長として学生を遠洋航海に連れて行っていました。あるとき、父の南極航海がNHKのドキュメンタリーで放映され、南緯40度あたりで船が木の葉のように大波に翻弄される場面を見ました。僕に船乗りは無理だなと思いました。実際、遠洋航海は結構つらいそうなのです」
組織を盛り上げ、最後に責任を取る
「父は『自分からああせい、こうせい言うのではなくて、みんなを生かして組織として盛り上げていくことが大事だ』と話してくれました。そして『何かあったときに最後に責任を取る気持ちでやるのが船長だ』と。それが私の原点にあります」
――ピーチのリーダーとして必要な条件は何でしょう。
「常にお客様が最上位にいることを意識できること。それと環境変化に敏感で、常に自己の順応力のアップデートに努められることだと思います。加えてリーダーにはパッション(情熱)が必要です。事業は新しいチャレンジの連続なのでパッションがないと難しい」
「それとコミュニケーション。社長とのダイレクトトークというよりも、『おまえ、元気か』『あれどうした?』とか、いわゆる『アリのコミュニケーション』ですね。それは明るい社風づくりにもつながります。サービス業なので社風が暗ければどうしても社員に伝染し、お客様にも伝わる。できるだけ社員に『えっ』と言われるようなことを心掛けています」

卓球に打ち込んだ中学時代、日中友好で訪日した卓球の世界チャンピオンの キ(希におおざと)恩庭さんとエキシビションマッチをしたが、憧れの人は中国語しか話せず、語学の重要性を痛感。大学で中国語を学ぶ契機となった。北京駐在時にキさんと偶然再会し、思い出話ができた
――運航準備からこれまでの8年間を振り返っていかがですか。
「CEO就任後で特に意識したのは安全運航です。調べてみると運航に問題があったLCCはほとんど倒産しています。定時運航率も含めて運航の品質が基本なんですね。コストをいかに下げるかもポイントだと思いました。単なるコストカットとは違い、工夫があるんです。私は『やりくり』といっています」
「最初はうまくいく確率は3割ぐらいと思っていましたが、予想以上にうまくいきました。こういうカテゴリーのビジネスが皆様に待たれていたと感じます。当初から気軽に乗れる『空飛ぶ電車』を掲げましたが、電車になってどうなるかはわかっていなかった。あるとき、福岡の花火大会へ行くのに浴衣で搭乗されたお客様がいました。これは衝撃でしたね。気軽な旅じゃなくて、気軽すぎる旅をする人たちの存在に気付きました」
気軽にしたらイノベーション
――「空飛ぶ電車」のコンセプトはどこから生まれたのですか。
「日本のイノベーション研究をリードしてきた一橋大学の米倉誠一郎教授(現在は名誉教授)にお話を聞きに行くと、『イノベーションは非連続で起きる』と言われました。たぶんライアンエアーのコピーをしようとしていると見透かされたんですね。そこでうんうんうなっているうちに、電車のように気軽にしたらイノベーションが起きるんじゃないかと思いつきました。チケットの手配やチェックインはお客様自身にやってもらい、座席の指定や飲食は有料、そして定刻になると待たずに出発する。まさに電車です」
――ピンク色の機体などピーチを印象づけた「キュート&クール」は。
「女性に愛される航空会社にしたらどうなるかと考えました。女性に好かれると男性もついてくると思ったのですね。テレビ番組で外国の女の子たちがいかに日本のポップカルチャーに憧れているかを見て、それをブランディングに生かせばよいとヒントを得ました。社名もアジア人がラッキーシンボルと見ている桃(ピーチ)を選びました。最初は女性比率が6割ぐらい。今は男女ほぼ1対1になっています」