べき論を通す Bリーグ理事が川淵三郎氏に学んだ極意
JBA(日本バスケットボール協会) 葦原一正理事(下)
あえて最大公約数で丸く収めない
実は、世界一競技人口の多いスポーツはバスケットボールだ。国内の競技登録者で比べると、サッカーが約90万人に対して、バスケットボールは約60万人。ただし、サッカーの競技者登録人口のうちほとんどは男性だが、バスケは男女比が半々という点に特徴がある。
「ビジネスの観点からいうと、アリーナスポーツという点も大きい。スポーツビジネスの上ではハードとソフトの両方を持つことが大事ですが、アリーナはスタジアムに比べて安く作れる上、稼働率もある程度、担保できます。バスケの様々な特長を一生懸命にアピールするなどした結果、初年度は結局、約50億円を売り上げることができました。もちろん、私一人の力ではなく、スタッフ全員が頑張った結果です」

あえてステークホルダーとの調整はせず、「べき論」のゴールを目指す
Bリーグに入ってからずっと葦原氏がスタッフに言い続けてきたのは、「べき論ファースト」だ。
「何かをしようとする際、できる・できないで判断するのではなく、『あるべき姿』を基準にしてルールを作ってほしいということです」
リーグ内にはB1、B2合わせると、全部で36チームある。案件によっては、賛成・反対で意見が割れることもしばしばだ。その際、たまたま反対する勢力の中に声の大きい人がいると、そちらに引きずられそうになることも。「その場合でも、あくまで原理原則ではどうなのかを考えて判断してほしい」というのが、葦原氏の考えだ。
「これは他のビジネスでも同じですが、えてして『あるべき姿』はこっちなのに、別の落とし所を探ったほうがうまく進むからと、そっちを選んでしまうことがあります。しかし、それではリーグ運営はできません」
例えば、外国籍選手が何人コートに立てるかという問題があったとしよう。リーグとしては「たくさん外国人がいれば日本人選手のレベルも上がるから、できるだけたくさんいたほうがいい」と考える人もいる。しかし、チームによっては、そうすると日本人選手がほとんど出られなくなり、ビジネスがうまく回らないから嫌だという声や、海外色が強くなってしまうから嫌だという声も出る。
たまたま影響力の大きい人物がそのような声を挙げると、リーグ運営もそっちに引っ張られ、AとBの真ん中のC案に落とし込みたくなってしまうものだが、「それはやめよう」といつも主張している。
「リーグ運営こそ、べき論が大事。そうしないと、ものごとが一つの方向に統合していきません。36チームが最大公約数で納得するようなルールを作ってしまうと、全体の方向がブレてしまう」