個人攻撃・書きすぎご法度 ネット会議にも作法あり
『もう会議室はいらない「テキスト会議」の運用ルール』 宮野清隆氏
すべてが記録に残る
トラブルが起きた場合、過去の意思決定手順にさかのぼって検証を加える必要が生じる。議事録では発言者の肉声を拾いきれないので、検証の手がかりとしては正確さを欠く。しかしテキスト会議はデジタルデータの形ですべての発言が記録されているので、検証が容易だ。ありがちな「言った」「言わない」の水掛け論も避けやすい。「過去の議論の経緯を振り返るうえでも、テキスト会議のデータがあれば、文章を読み込むだけで、討議の流れをつかめる」(宮野氏)。担当者が異動になった場合、後任がそれまでの事情をキャッチアップするような場合にも、事情把握の手間が省ける。
記録が残ることで、本人は「この発言は誰もが読める形で『証拠』として残る」と意識する。これが丁寧な意見表明につながる点も見逃せないメリットだ。「真剣で建設的な議論に役立つ」と、宮野氏は評価する。リアル会議ではしばしば不作法な放言や言いがかり的な攻撃が飛び出す。「どうせ記録に残らない」「この場限り」といった甘えが下地になっていることが多い。しかし、テキスト会議ではそんな甘えは通用しない。すべてが記録に残る。閲覧権限さえあれば、社長も部下も読める。発言に際しての「良識的判断」を担保する期待が持てるだろう。
人間同士が向き合うリアル会議は時として、批判がエスカレートして個人攻撃に陥りやすい。本来の議題から脱線して、売り言葉に買い言葉的な応酬や言葉尻をとらえたあげつらいも起きがちだ。テキスト会議では対面状況がない分、口角泡を飛ばす展開にはならない。ただし注意は必要だ。人格攻撃や中傷合戦に至るケースはしばしば起こり得るからだ。本書では「第7章 禁止行為」で事例を挙げて、好ましくない振る舞いを示した。個人への批判をはじめ「建設的でない批判」「粗暴な表現」「発言の抑圧」などが含まれる。あらかじめルールを定めておくことは、こうした行為の抑止力になり得る。
趣味サークルでもルールを決めよう
テキスト会議が役立つのは、企業だけではない。むしろ、なかなか顔を合わせにくいNPO(非営利団体)や趣味サークル、組合組織などでの活用意義は大きい。任意組織では割とフラットな立場でのつきあいになるので、自由に物が言いやすい。そんな関係だからこそ「議事がもめるケースも起こり得る」(宮野氏)。フラットな組織であっても、運用ルールを決めるにあたって本書の提案が役に立ちそうだ。
多くのリアル会議は、必ずしもその席での意見集約が主な目的ではなく、既に根回し段階で合意した内容を大勢の参加者が確認する「儀式」であるケースも少なくない。誰も反対しなかったという事実を示すための「アリバイづくり」ともなりがちだ。しかしテキスト会議では幅広い参加者から実質的な意見表出が相次ぎやすいので、本来の意味での「会議」となる期待が持てる。リアル会議をテキスト会議に置き換えるのは、会議の成果を高めるうえでも、意味が大きいはずだ。
シスデイズ社長、年収1000万円以上の交流グループ「HighSociety Japan」代表、高IQ団体「JAPAN MENSA」会員。ICT(情報通信技術)のスペシャリストとして複数の資格を持ち、システム開発プロジェクトでのマネジメント経験が豊富。