変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

佐藤 起業家の成功と失敗は、かなりの確率で時代の流れに左右されるのだとすると、起業家はどのように時代とどのように向き合えばいいのでしょうか。

ジョーンズ 時代のコンテクストは戦争のように逆風となることもあれば、絶好の事業機会になることもあります。起業家がコントロールをすることはできませんが、チャンスとして生かすことはできるのです。

日本の戦後の経済状況は、起業家にとっては大きなチャンスでした。日本人の所得はどんどん上がっていき、人々は「より便利なもの」を求めるようになりました。さらには、格好の宣伝メディアとなるテレビも急速に普及していきました。「少し高くても便利なもの」が売れる条件が整っていたのです

チャンス逃さなかった百福

百福はこのチャンスを逃しませんでした。ラーメンの屋台には行列ができていて、アメリカから安い小麦粉も手に入ってくる。人々は早く食べられるものを求めている。テレビという強力なメディアも普及しつつある。こうした社会のトレンドを鋭く観察したからこそ、チキンラーメンを大ヒットさせることができたのです。

同じ時代、同じ経済環境の中で生きていても、それをチャンスとしてとらえられる人と捉えられない人がいます。安藤百福は巧みな起業戦略で、時代の要請にあった製品を発明し、成功したのです。

佐藤 安藤百福は「即席めんの発明にたどりつくには、やはり48年間の人生が必要だった」(「転んでもただでは起きるな!――定本・安藤百福」中央公論新社)と述べています。それにしても前半の48年間は、2回も投獄されたり、無一文になったり、苦難の連続です。なぜ百福はこうした苦難を乗り越えることができたのでしょうか。

ジョーンズ 百福は最終的にインスタントラーメン事業にたどりつくまでに、メリヤス貿易、軍用機用エンジンの部品製造など様々な事業を起こしては失敗しています。しかし、47歳で無一文となり、「食」で世のために尽くすことが自分の使命だ、と決めてからは、ぶれずに「お湯をかけるだけで食べられるラーメン」の開発に没頭します。

授業では「安藤百福が失敗を重ねたのは『自分が何のために起業するのか』を模索していたからではないか」と指摘していた学生もいましたが、やはり「日本の戦後の復興は食からだ」という情熱があったからこそ、数々の苦難を乗り越えられたのではないでしょうか。

(中)遅咲き安藤百福 ハーバードがみたジョブズとの共通点 >>

ジェフリー・ジョーンズ Geoffrey G. Jones
 ハーバードビジネススクール教授。専門は経営史。同校の経営史部門長。MBAプログラムの人気講座「起業家精神とグローバル資本主義」を教える。主な研究テーマはグローバルビジネスの進化、社会・環境への影響、及び責務。金融、貿易などのサービス分野から化粧品、トイレタリーなどの消費材分野まで幅広く研究し、多くの著書を執筆。主な著書に「グローバル資本主義の中の渋沢栄一―合本キャピタリズムとモラル」(共著、東洋経済新報社)、「国際経営講義―多国籍企業とグローバル資本主義」(有斐閣)。近著に 「Profits and Sustainability: A History of Green Entrepreneurship」(Oxford University Press)。

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